Meiji Dairy Advisory(MDA)の取り組みに参加する愛知県刈谷市の清水牧場を紹介します。地域住民の方とのコミュニケーションを活発に行い、牛も家族のように暮らす環境を目指す、清水一将さんにお話を聞きました。
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清水一将さん
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地域とのつながりが、牧場を支える
愛知県刈谷市で唯一の酪農家・清水牧場。従業員4人と約200頭の牛を飼養しています。農場の横には古くから流れる用水路があり、その脇を散歩する地域の方も多く、午後になれば帰宅後の小学生が農場に遊びに来ることもあるのだそう。
「2021年に父親から経営を託され、法人化する際に経営理念を『牛とともに生き、地域の発展と豊かな暮らしに貢献します』と掲げました。祖父の代から、基本的に自家育成で子牛のときから育てていますので、ここで生まれた牛が敷地を出るときは乳牛としての役目を終えたときか、死んだときです。それだけ長くいるので、牛に優しく、家族みたいに扱いたいという気持ちが込もっています」と話すのは社長の清水一将さん。
旧牛舎の裏では、生後1年ほどの子牛たちが柵の中でじゃれ合い、走り回っています。敷地内に置かれた牧草のパッケージには、楽しそうな落書きが――。「昔から地域とのつながりを大事にしてきました。祖父が最初にここで建てた牛舎は町内の小学校を移築してきたもので、今も鬼瓦に「学」の文字が残っているんです。その小学校の子どもたちが牧場を見学に来たり、学校が終わってから遊びに来たりしています。落書きは子どもたちの伝言板のようなものですね」と笑います。
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遊びに来た小学生が飼料の包みに残していった落書き。
子どもたちの学んだメッセージが詰まっています。 -
生後2~3カ月の子牛。生涯牧場内で過ごすこととなります。
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聞けば、牛に給餌している稲(稲発酵粗飼料:稲WCS)は町内の農家に作付けを依頼しているのだとか。名古屋市から1時間圏内の場所で、国産飼料が手に入るつながりができています。「本来は牛用の稲が良いのかもしれませんが、田んぼの管理上、難しいことが分かりました。人間用の稲を牛の飼料として適したタイミングで刈り取り、稲WCSとして使用しています。もしもの時、人間の食べ頃で刈り取れば、人間が食べる米としても使える。いわば非常食をおすそ分けしてもらっている感じです」。さらに、牧場で出た牛糞は固液分離を行った後、堆肥場で一時保管され稲WCSをつくる農家さんや、ご近所の農家さんに堆肥として譲ったり、牛のベッドの上に敷いているモミガラは町内の米の貯蔵庫から清水さん自身が運搬してくるそう。
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地域とのつながりの中では、農業における資源の循環や、いのちのつながりを子どもたちにも伝えています。小学生からお年寄りまで常に人の出入りが多い牧場のため、従業員4人も対応に慣れており、取材中も普段通りに搾乳作業を続けていきます。
「誰でも来られる牧場というのは、消費者が近いということ。“キレイな環境で搾った安心で安全な生乳なんだ”と思ってもらえるよう、新牛舎もキレイに維持することを心掛けています」と清水さん。
農場のアップデートに挑戦
2022年6月に新しく牛が自由に動き回れるフリーストール牛舎が完成しました。ベッドの数は176頭分、現在の搾乳頭数は90頭なので、数年かけて増頭する計画を推進しています。愛知県刈谷市の夏は、とても暑いため、新牛舎は風の通り道が計算された造りになっており、夏は南側からの風とあわせて大きな扇風機が8機稼働。さらにベッドのマットの中には水が入っており、ウォーターベッドの柔らかな寝心地に加え、暑熱時にはコンクリートの冷たさがマットで遮断されず牛に伝わるので快適に過ごせます。
ミルキングパーラー(搾乳施設)は、8頭が2列に並ぶ構造で、搾乳は2人の従業員が担当。「心掛けていることは、牛に優しく接するという理念のもと、牛の負担が少ないように搾乳することです。そして、ミルキングパーラーを使った後は、元のキレイな状態に戻すよう丁寧に清掃をしています」
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ミルキングパーラーでの作業風景。
移動後2カ月経ち、牛たちも搾乳に慣れてきたといいます。 -
ウォーターベッドの上にはモミガラを敷き、快適性が向上。
温度管理がしやすくなり、2022年夏の疾病は大幅に減りました。
新牛舎に移動してから作業効率は上がり、乳質は格段に良くなりました。ミルキングパーラーの横の管理室には、体細胞数のグラフが掲示されています。「体細胞数のグラフを明治の担当者が毎月作成してくれるので、従業員の意識付けにもなっています。昨年度との比較がひと目で分かるように見える化されたため、数値の上下の原因について、考えるきっかけとなりました」とMDAの成果を語ります。
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原因を探るには、牛の様子を観察するだけでなく、専門的な知識も必要になりますが、その伝え方には難しさを感じているといいます。「昔の酪農家は先人の背中を見て仕事を覚えるものだったかもしれませんが、今は違います。相手の知識に合ったレベルで因果関係を教えることで、解決策を自分で探せる力をスタッフにも養っていってもらいたいと考えています」と清水さん。明治飼糧と明治アニマルヘルス、明治の担当者が牛や飼料の状態、従業員の作業状況を確認し、問題点や改善策を示すことで、明治グループとして連携した支援を行っています。
「牛は繊細な動物です。新牛舎への移動も大きなストレスとなり、泌乳量が低下してしまいました」と清水さん。
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しかしながら、飼養環境は旧牛舎に比べて良くなり、作業効率もアップ。増頭に向けて、今は我慢の時と清水さんは続けます。「新牛舎の計画が出来てから、フリーストール牛舎でも飼養できる足の強い牛に切り替えてきました。2023年春には50~60頭が分娩予定です。新牛舎で176頭飼うことを目指しながら、旧牛舎の作業効率を上げることがこれからの課題です」。
地域に貢献し、つながりを深めてきた清水牧場。新しい牛舎と牛たちとともに、農場をアップデートしていくため、まだまだ挑戦は続きます。