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KMバイオロジクス株式会社 研究開発本部 製品開発部 部長 園田 憲悟

佐々木 隆之Takayuki Sasaki

Meiji Seikaファルマ株式会社
DX推進室 室長

人のこころは目に見えないもの。自分自身の精神的な疲労やダメージすら感知するのは簡単ではありません。もし、こころの病のサインを発症する前にキャッチできたら・・・?

うつ病は、長期休職、失業、自殺などの最大要因となっています。経済協力開発機構によれば、長引くコロナ禍において2020年の日本国内のうつ状態の人の割合は17.3%と、2013年の2倍以上になっています。この重大な脅威に直面して、Meiji Seikaファルマは、広島大学、半導体商社の株式会社マクニカと共同で「うつ病をDXで予防する」プロジェクトを開始しました。

脳科学でこころの状態を「見える化」する

発端となったのは、広島大学の脳・こころ・感性科学研究センターの研究でした。センター長を務める精神科医の山脇特任教授とそのチームは、患者さんのこころの状態を「見える化」し、それを本人がモニターしながら自らを良い状態へ導き、制御していけるような独自の訓練法の開発に取り組んできました。

山脇 成人 氏
広島大学 特任教授(前精神科教授)医学博士
広島大学 脳・こころ・感性科学研究センター センター長

山脇特任教授は語ります。「うつ病という病気には、十分に研究がなされておらず、あいまいなままになっている領域が残っています。私たちは、人がストレスに対処する機能に異常を来たしたさい、脳や体に何が起こっているのかを可視化する技術を研究しています」

そのような世界で最先端の研究に取り組む広島大学と、デバイス開発やAIに強みを持つマクニカ、そして長年うつ病の治療薬を開発・販売してきたMeiji Seika ファルマが出会ったことで、うつ病予防DXの実現に向けたプロジェクトがスタートしました。

Meiji Seikaファルマの佐々木は語ります。「私たちは30年以上にわたって不安・うつ領域で医薬品を開発してきましたが、発症後の治療だけでなくて、その前に不調に気付けるように予防的介入をしていくこともこれからの製薬会社に求められている役割だと感じていました」

うつ病の診断と治療に科学的な指標を

うつ病の診断と治療は医師の経験と主観に頼らざるを得ない状況であり、客観的な指標がないことが課題となっています。また、デジタル技術を使ったメンタルヘルスをうたうアプリなども出回っていますが、科学的根拠が不明確なものも散見されます。だからこそ、今回のプロジェクトは「科学的な根拠」にフォーカスしています。

具体的には「ニューロバイオフィードバック」という技法を応用します。脳波から得た情報と、体温や脈拍、血圧など体から得た情報をそれぞれ可視化し、脳と体の状態を脳に認知させる(フィードバックする)。それによって、こころの状態、ストレスの状況、そして、どの程度うつ病に近付いているのかを明らかにすることができます。

こころの状態を可視化する「ニューロバイオフィードバック」

自身も20年以上、精神科医として臨床現場に携わってきた山脇特任教授は、この技術によってうつ病の早期発見・早期治療が可能になるかもしれないと語ります。
「うつ病にはさまざまなタイプがあります。例えばこの患者さんにはこの薬が効く・効かないということがわかれば、医師は適切な治療方法をいち早く選べるようになるはずです」
(山脇特任教授)

うつ病の「予防」を可能にするオープンイノベーション

さらに、佐々木らの開発プロジェクトは、うつ病の兆候に"自身で"気付き予防できるようになるような仕組みも見据えています。具体的には、スマートフォンやウェアラブルデバイスから得た脳と体の情報をクラウドに蓄積し、それをAIが解析。こころの状態を「見える化」するだけでなく、デバイスを通じて一人一人に最適な対応方法をお知らせすることも構想しています。

こうした仕組みが実現すれば、予防的に自らのストレス耐性や回復力を高めていくことが可能になると期待されます。

うつ病を予防するDXソリューション

こうした技術を実現するには多様な分野での高い専門性が必要となりますが、そこで力を発揮するのが今回のようなオープンイノベーションです。

Meiji Seika ファルマは基礎・臨床研究支援と市場調査を、広島大学は脳科学研究を、マクニカは医療IoT機器の探索・調達とクラウド・AI・ソフトウェア開発支援を…と3者それぞれの強みを活かして、この仕組みの実用化と事業化に取り組んでいます。

一日も早い実現に向けて

現在、佐々木のチームが進めているのは、個人のストレス特性の特徴に応じたグループ分けを行うためのモデル作成です。今後の応用研究の基盤となる重要なフェーズで、より多くのデータを集めて精度の高いモデルを構築することが求められますが、Meiji Seikaファルマとマクニカの社員が研究ボランティアとして参画し、データ収集に協力しています。

デバイスのサイズも大きな課題です。現時点では高価で巨大な機械が必要な「fMRI(磁気共鳴機能画像法)」という方法でデータを取得しており、実用化・事業化の大きな壁となっています。そこで生きてくるのが、マクニカの半導体商社としてのネットワークです。デバイスやセンサーを世界中から調達し、デバイスの小型化に力を発揮してもらえるはずです。

佐々木は語ります。「Meiji Seika ファルマは長年うつ病の治療に貢献してきた製薬会社ですが、山脇先生の熱意に共感して、心を動かされたのがきっかけで、今回の取り組みに参画しました。広島大学やマクニカの皆さんと力を合わせて、こころの不調に悩む人々に寄り添い、うつ病という社会の脅威に立ち向かっていきたいと思います」