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KMバイオロジクス株式会社 研究開発本部 製品開発部 部長 園田 憲悟

藤田 洋一Yoichi Fujita

KMバイオロジクス株式会社
企画管理本部 経営企画部 広報課 課長

新型コロナウイルス感染症の拡大などで、ここ数年「ワクチン」という言葉が頻繁に聞かれるようになりました。しかし、ワクチンとはどのようなものなのでしょうか。

私たち明治グループは、さまざまなワクチンを開発・製造し皆さまに届けてきました。長年開発を続けてきた立場から、仕組みや歴史、社会との関わりなどワクチンの基礎についてご紹介します。

ヒトの持つ力を最大化

ワクチンはヒトに備わる「免疫の仕組み」を利用して感染症を予防しています。

「感染症」とは、体の外から「病原体」(病気を発生させるウイルスや細菌など)が侵入することで、さまざまな症状が出る病気です。病原体が体の中に入ると、免疫の仕組みが働きます。免疫の仕組みが病原体を異物として排除・攻撃し、最終的に感染症の症状は治まります。

免疫は体のさまざまな機能が助け合う複雑な仕組みですが、中でも大きな役割を担うのが「抗体」です。ヒトは体内に侵入してきた病原体にそれぞれ対応する抗体をつくり出すことができます。つくられた抗体の作用はとても強く、次にその病原体が侵入した際、それを排除・攻撃するのに役立ちます。

この抗体を「病原体が体に侵入する前にあらかじめつくっておく」のが、ワクチンの狙いです。具体的には、その病原体を構成する物質や、弱毒化・無害化した病原体を体に接種します。すると体は病原体が入ってきたと判断し、その病原体に対応する抗体をつくります。ワクチン接種により抗体を事前につくることで、感染や重症化を防ぐことが可能になるのです。

ワクチンに含まれる病原体や病原体を構成する物質は、体に害のない状態にしているためワクチン接種によって感染症を引き起こすことはありません。ワクチンは、免疫というヒトの持つ力を最大限活かす感染症予防策といえるでしょう。

ワクチンによる抗体産生のイメージ

代表的なワクチンの種類と仕組み

種類 仕組み
生ワクチン 弱毒化したウイルスを使う ロタウイルスワクチン
不活化ワクチン 不活化した(感染力や毒性をなくした)ウイルスを使う インフルエンザワクチン
組換えタンパクワクチン 病原体の成分を使う B型肝炎(HBV)ワクチン
mRNAワクチン ウイルスの設計図を使う 新型コロナワクチン

その歴史は「牛」から始まった

ワクチンの始まりは旧く、1790年代には人類初のワクチンが接種されたといわれています。イギリスの医師エドワード・ジェンナーが開発した天然痘ワクチンです。

強力な伝染力を持つ天然痘は、紀元前より人類に恐れられてきました。症状は急な発熱と全身の発疹・水疱すいほうで、致死率は20~50%でした。

一方、18世紀のイギリスでは、牛の間で天然痘に近い「牛痘」の流行が見られました。牛痘はヒトにも感染します。当時牛の膿に触れる乳しぼりの女性が多数牛痘に感染しましたが、重篤な症状は出ないことでも知られていました。

ジェンナーは、牛痘に感染したヒトが天然痘に感染する確率が極端に低いことに目を付けました。実験の末、牛痘に感染した人の水疱から液体を取り出し、その一部を接種する「種痘」を確立、これが人類初のワクチンとなったのです。

「牛痘」への感染が、天然痘の感染予防に

天然痘ワクチンは改良されながら世界中に広がり、多くの人々が接種しました。感染事例は急減、1980年にはWHOから「天然痘根絶宣言」が宣言されました。

動物もワクチンを接種する

ヒトの持つ免疫の仕組みを活かすワクチン。もちろん、動物にもヒト同様に免疫の仕組みは備わっており、動物用のワクチンも多数開発されています。身近なところでは、飼い犬に接種させる狂犬病ワクチンがあります。
他にも牛、豚、鶏などの家畜、ブリなど魚用のワクチンもあります。これらのワクチンは、私たちの食を守る重要な役割を担っています。
2022年に明治グループは、動物用医薬品事業を統合し専門的に担う「明治アニマルヘルス株式会社」を立ちあげました。私たちはヒトだけでなく動物の健康も守り続けていきます。

ワクチン接種の意義

ワクチンの誕生で、世界は大きく変わります。ワクチンによる感染症の「排除」(一つの国・大陸などから感染症の発生が見られなくなった状態)や「根絶」(全世界で感染症の発生が見られなくなった状態)が、その代表的な事例です。

ワクチンは、接種した本人だけでなくその社会にも恩恵をもたらします。ある感染症に対応する抗体を持つ人が多いと、感染者が出たとしてもそれが広がりにくくなるためです。いわゆる「集団免疫」です。

集団免疫のイメージ

ワクチンは集団免疫の獲得にも役立ちます。1980年にはWHOによる天然痘の「根絶」が宣言され、最近では、2015年に麻しん(はしか)が日本国内で「排除」状態であると認定されています。2023年現在、国内で確認される麻しん発症例は、排除が進んでいない国外で感染したケースのみです。

人類は、過去、天然痘や新型インフルエンザなど数々の感染症と対峙してきました。現在も「新型コロナウイルス感染症」という新興感染症との戦いを続けています。残念なことに、この先も人類を脅かす感染症が繰り返し発生することは否定できません。

しかし、私たちの社会は、さまざまなワクチンで感染症に立ち向かってきました。感染症から身を守るために、その備えとなる有用なワクチンは求め続けられます。世界の人々が健康で安心して暮らせる社会の実現に向け、私たちはこれからも貢献していきます。