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Meiji Seika ファルマ株式会社 研究開発本部 開発プロジェクト統括部 プロジェクトリーダー 近藤 賢一郎

近藤 賢一郎Kenichiro Kondo

Meiji Seika ファルマ株式会社
研究開発本部 開発プロジェクト統括部 プロジェクトリーダー

人々が気付かないうちに進行する"サイレントパンデミック"。世界的に重大な危機をもたらすと言われている、抗生物質への耐性を持つ"薬剤耐性菌"が、今まさに静かに広がっています。明治グループはこの世界的な課題に正面から向き合い、取り組んでいます。

私たちの健康は今、新型コロナウイルスのパンデミックによって脅かされています。しかし、私たちの知らないところでもう一つの危機が進行しています。それはウイルスではなく"細菌"による感染症の拡大です。20世紀初めにペニシリンなどの抗生物質が開発され、人類は細菌と闘える武器を手にしたはずでした。しかし今、再び細菌が私たちの脅威となっているのです。

それは抗生物質から自らの身を守るために、細菌が進化しているからにほかなりません。薬剤耐性(AMR)と呼ばれるこの過程によって、薬が効かなくなったり、投与する薬の増量が必要になったりするのです。抗生物質へ耐性を示す細菌は1970年代に初めて報告され、以来、一部の抗生物質の使用が制限されています。

薬剤耐性菌は抗生物質による治療を脅かす

薬剤耐性菌に対抗する治療法を早く開発してほしい――。世界保健機構(WHO)は製薬業界に対して要請してきました。
「効果的な抗生物質を新たに開発し、製造、流通させなければなりません。しかし今のところうまくいっておらず、このままではAMRの悪影響が強まります。細菌感染症の治療の難易度は高まっていくと考えられます」
WHOのAMR担当事務局長補佐 ハナン・バルキー博士はこのように話しています。

1940年代に日本で初めてペニシリンを製造した明治グループは、現在、AMRの問題に真剣に対峙(たいじ>する数少ないグローバル企業の一つです。

「多くの製薬企業は、新たな抗生物質の開発を断念しています。糖尿病やがんの治療薬とは異なり、抗生物質は5〜10日程度の短期間処方されるだけなので、収益につながりにくいからです」
こう話すのは、Meiji Seika ファルマのプロジェクトリーダー、近藤 賢一郎。近藤は、AMRに対応する新規β-ラクタマーゼ阻害剤「OP0595」の開発プロジェクトを率いています。

「今使われている抗生物質の中で、最も強力で信頼性が高いのはカルバペネム系抗生物質です。この抗生物質はほとんどの細菌に対して効果を示すのですが、すでにこのカルバペネム系抗生物質に対する耐性を持つ菌が世界中で出現しています。「OP0595」は、β-ラクタム系抗生物質(セフェピムまたはアズトレオナム)と共に投与することで、カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(carbapenem resistant Enterobacterales: CRE)による感染症に対し、有効な治療薬となることが期待されます」

「OP0595」の開発は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE)に採択され、政府からの資金援助を受けて進められています。現在は、臨床試験の第I相が終了し第III相の準備段階ですが、近藤はすでに早期の世界展開を見据えています。カルバペネム耐性菌は日本で0.2%の分離率であるのに対し、海外では分離率が高く、例えば中国では10%に達しており、世界的な課題だからです。
「日本での感染例は年間2,000例程度ですが、中国や東南アジアではより多く生じています。国の事業に採択いただいていますので日本での発売が優先されるものの、国外での発売も急ぐべく準備を始めています。」

感染症にかかった人(菌に感染した人)のうち、カルバペネム系抗生物質に対する耐性を持つ菌を保有していた人の割合

写真:1940年代のペニシリン製造の様子
ペニシリン製造
イラスト:
「OP0595」の化学構造

薬剤耐性菌への対策を急ぐ理由

AMRへの対応を急がねばならない理由は、英政府支援のもとで進められた「AMRに関する影響評価」による予測を見ると明らかです。驚くべきことに、AMR関連の感染症によって奪われる命は年間70万人。このままだと、2050年までに年間1,000万人に増加し、心臓病や脳卒中、がんによる現在の死亡者数を上回るほどになると推定されています。まるで、あらゆる人々が細菌感染症を恐れて生きた時代に後戻りするかのようです。また、AMRによる経済コストは100兆米ドルにも上ると予測されています。

グラフ:AMRを放置した場合、2050年までにAMRによる死者が年間1,000万人に上る可能性を示しています。

「AMRに関する影響評価」のとりまとめにおいて座長を務めたジム・オニール氏は、私たちが取るべき4つの行動として、①人々の意識の向上、②抗生物質開発への資金提供の拡大、③診断法の向上を通じた抗生物質の過剰使用の防止、④農業における抗生物質の使用削減を提言しました。

明治グループは、「OP0595」の成果だけでなく、「ワクチンと抗生物質の両方を開発する企業」であることからも、この問題の解決に貢献しているといえます。人も家畜も、ワクチンの接種率が高いほど、抗生物質による治療の必要性が低くなるからです。

しかし、製薬業界がどんなに努力しても、AMRをすぐに解決することは困難です。そもそもAMRとは「細菌が抗生物質から身を守る仕組みを進化させ続ける過程」である以上、長期的な取り組みが必要になります。

「AMRとの戦いには、終わりがありません。やりがいはありますね。この見えない敵と戦い続け、一刻も早く「OP0595」を医療現場に届けたいと強く願っています」

写真:スポイトを使った業務で薬剤耐性の研究に取り組む研究員の様子
私たちはこれからもAMRの問題解決に取り組みます。