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天沼 弘光Hiromitsu Amanuma

明治ホールディングス株式会社
サステナビリティ推進部 サプライチェーンG長
(2023年9月末現在)

池下 秀介Hidesuke Ikeshita

明治ホールディングス株式会社
サステナビリティ推進部 サプライチェーンG 課長

牛乳・乳製品は、日本で最も多く消費されている食品です(農林水産省「食料需給表」令和3年度国内消費量)。栄養価が高いのはもちろん、食の豊かさをもたらしてくれることから、牛乳をはじめ、ヨーグルトやチーズなどの乳製品は食卓になくてはならない食品となっています。

一方、牛のゲップやふん尿にはメタン(CH4)や一酸化二窒素(N2O)といった温室効果ガス(GHG)が含まれており、それらは世界のGHG排出量の3%を占めるとされています。中でも、乳用牛におけるGHG排出量は、畜産全体のうち44.5%と最も大きい割合を占めます。こうした環境負荷を低減することは、今や世界的な課題のひとつです。明治グループは酪農業におけるGHG排出量削減への取り組みに着手し、サステナブルな酪農の実現に向けて歩みを開始しました。その第一歩を踏み出すにあたって、酪農業に携わる方々にGHG排出量削減を「自分ゴト化」として捉えてもらうためには、まずは牛乳の温室効果ガス排出量を「見える化」する必要があるのではないか。そのような考えから、酪農家とともにカーボンフットプリント(CFP)算定の取り組みを実施しました。

畜産全体に占めるGHG排出の構成(日本)

出典:農林水産省「畜産・酪農をめぐる情勢」を基に作成

牛乳におけるGHG排出の構成(世界)

出典:国連食糧農業機関およびグローバル・デーリー・プラットフォーム「気候変動と世界の乳牛セクター将来の低炭素社会における酪農乳業セクターの役割」(2018年)

牛乳の原材料調達から生産、消費、そして廃棄まで、温室効果ガス排出量を算定する

CFPとは、原材料調達から生産・流通・消費・廃棄に至るまでの商品のライフサイクルにおいて生じるGHG排出量(CO2換算)を算定し、環境負荷を定量的に「見える化」するもの。酪農業においては、牛のゲップやふん尿からの排出をはじめ、牛舎で使用されているエネルギーの排出など、多岐にわたる発生源があります。そのため、CFP算定を酪農家と連携して実施していくことはハードルが高く、国内では実データに基づいて行われたことがありませんでした。

明治グループがこのチャレンジングな取り組みに挑戦することを決めたのは、日本の酪農業界全体の問題意識を高めたいという思いからでした。

明治グループのサプライチェーン全体のGHG排出量(CO2換算)を見てみると、そのうち約85%はScope3と呼ばれる、明治グループ以外から排出されたものです。そして、その大部分を生乳の調達に関わる排出量が占めています。明治グループが2050年までにGHG排出量を実質ゼロにするという目標を掲げる中で、日本の酪農業におけるGHG排出量を削減することは、私たち明治グループが先陣を切って取り組むべき課題であると考えたことも、今回のCFP算定に着手した理由のひとつです。

酪農経営での温室効果ガス発生場面

出典:『酪農ジャーナル電子版 酪農PLUS+』「特集:酪農における温室効果ガス排出と
削減に向けて」(2021.10.26掲載)より改変

日本初となる取り組みの特徴

酪農業が地球環境に与える影響は、これまでも少なからずいわれていました。しかし、品質の良い生乳を安定的に生産することを責務としている酪農家にとっては、その課題感は伝わりにくく、解決すべき社会課題として認識されていませんでした。さらに、牛乳のCFP算定をするには実際に酪農家の電気料金やエサの使用量や軽油・電気といったエネルギー使用量などのデータを集計する必要があり、大きな作業負担を要します。

そこで、明治グループの社員が実際に牧場へ赴き、1年間のデータを基に集計作業を担うことにしました。北海道網走郡津別町の指定農場の生乳で作られている「明治オーガニック牛乳」の実データに基づいてCFPの算定を行ったところ、この牛乳1本あたりのCFPは、海外で算定されていた数字とほぼ同じ、「上流(原材料調達)」が91%、「中流(生産)」が6%、「下流(流通~廃棄)」が3%という結果になり、生乳の生産に関わる工程がほとんどを占めていることが判明しました。

国際基準である「環境製品宣言(EPD)」と国際団体である国際酪農連盟(IDF)が推奨している世界基準の算定のガイドラインを参考にCFPの算定を行いました。

酪農のGHGの算定結果

サプライチェーンの各工程におけるCFPの算定区分

GHG排出量削減という次のステップに向けて、引き続き取り組みを進めていきます。

この取り組みには、酪農経営では通常整理しないデータをご提供いただくなど、生産者にご負担となる作業があります。そのため、CFP算定の意義を丁寧に説明し、調査にご協力いただけるよう心がけました。結果的に、多くの方々のご協力を賜り、CFPが算定され、酪農経営におけるGHG排出源を数値で把握できたことは重要な成果です。 "牛乳"のCFP算定という皆さまの協力に感謝し、次のステップである排出量削減に向けて取り組みを進めていきたいです。

株式会社 明治
酪農部 開発G
結城 遼

排出量削減への具体的なアクションにつなげていく

今回、海外の算定結果ではなく、身近な日本の酪農家の実データを基に算定し、商品のサプライチェーン上でGHG排出量の高い工程を特定したことは、酪農家や業界の環境への意識醸成において大きな意義のある取り組みとなりました。明治グループでは今後、GHG排出量見える化推進に向けて「明治おいしい牛乳」などの商品でもCFP算定を検討していきます。

GHG排出量を見える化することは、削減のきっかけづくりに過ぎません。酪農業界全体の意識向上を図り、GHG排出量削減に向けた具体的なアクションにつなげていきます。

実際の削減を進めるにあたり、牛の飼料を工夫することでふん尿から排出されるGHGを削減するプロジェクトにも取り組みます。明治グループは、サステナブルな酪農を日本で実現していくために、酪農業界全体の意識向上を図り、GHG排出量削減に向けた具体的なアクションにつなげていきます。