増田 卓也
株式会社 明治
グローバルニュートリション事業本部 乳幼児・女性栄養マーケティング部
調製乳G
渡部 暁
株式会社 明治
価値創造戦略本部 コミュニケーション部 コンテンツ開発G グループ長
時代とともに価値観やライフスタイルが多様化する中、明治グループはお客さまのニーズや課題解決にフィットする商品・サービスを提供していこうと、デジタルを活用したコミュニケーションを強化しています。
その一例が、育児記録アプリの「赤ちゃんノート」です。さまざまな情報があふれる今、育児に関して「どの情報が正しいか分からない」「すぐに相談できる場所がない」と不安を抱える方も少なくありません。明治グループは100年以上にわたって赤ちゃんの成長に寄り添ってきた知見を活かし、アプリを通して育児中の方々の支援に力を入れています。このサービスへの思いや展望を、マーケティング担当の増田とアプリ開発担当の渡部に聞きました。
コロナ禍を機に、
妊産婦さんとの新たな接点づくり
明治が初めて乳児用ミルクを発売したのは、1923年のこと。乳児用ミルク「明治ほほえみ」は、徹底した母乳研究で進化を続け、国内トップシェアの商品として広く支持されています。1976年には「赤ちゃん相談室」を開設し、栄養士や管理栄養士の資格を持った相談員が、育児のさまざまなお悩みに電話で応じる体制を構築しました。2000年からは育児応援Webサイト「ほほえみクラブ」でも、子育てに役立つ幅広い情報を発信しています。
明治グループは、母乳が赤ちゃんにとって最良の栄養であるという考えを基本としています。その考えのもと、明治では在籍する約200人の栄養士・管理栄養士が、長年にわたり全国の病院や産院、赤ちゃん用品店などで「調乳指導」や「栄養相談」を行っています。調乳指導とは、妊産婦さんやご家族に向けて、母乳育児を基本としながら、必要に応じて粉ミルクを活用する際の正しい作り方や育児における栄養の大切さを伝える活動で、明治にとっては直接お客さまと話ができる貴重な場です。ところが、新型コロナウイルス感染症のパンデミックで、状況が一変。「明治ほほえみ」のマーケティングを担う増田は次のように話します。
「病院などでの調乳指導ができなくなり、妊産婦さんと直接コミュニケーションをとる機会がなくなりました。それをきっかけに、なんらかの形で接点を持てないかと、新しいコミュニケーションの場を模索し始めました」(増田)
一方その頃、明治グループ全体として、デジタル技術の活用でお客さまとの関係強化を図ろうと検討が進んでいました。デジタル施策を担当する渡部は、次のように振り返ります。
「メーカーの情報発信というと、従来はダイレクトメールやメディアによる一方的なものがほとんどでしたが、今は、SNSなどの登場で手軽に双方向のコミュニケーションができる時代。ちょうど私たちも強化施策を考えていたタイミングだったので、『明治ほほえみ』のチームと一緒に妊産婦さんやご家族をサポートする育児記録アプリを開発しようと、部門横断のプロジェクトを立ち上げました」(渡部)
栄養士にいつでも電話相談できる安心感
育児記録アプリは、授乳や排泄、睡眠などを記録し、赤ちゃんの健康管理に活用するツールです。以前は手書きのノートでの記録が主流でしたが、近年ではアプリを利用する方も増えています。明治では、2022年に「赤ちゃんノート」の開発に本格的に着手しました。
「『赤ちゃんノート』はアプリとしては後発です。すでにあるアプリとの差別化のため、100年以上にわたって赤ちゃんの成長に寄り添ってきた明治ならではの知見を最大限に活かし、ママ・パパやご家族の不安を解消しながら親身に寄り添うことを一番に考えました」(増田)
栄養士が待機する「赤ちゃん相談室」にワンタップで電話をかけられる機能を付けたのも、安心を届けたいという思いからです。この機能について増田は、「最初から絶対に付けようと思っていた」と話します。
「アプリ開発は初めてなので、どう進めたらいいか分からない状態でした。開発担当の渡部をはじめ、開発ベンダー(関連会社である現・株式会社Wellnize)や法務などとも協議を重ねました。もちろん栄養士たちの協力は不可欠でしたし、主要なユーザーとなる親御さんの目線を取り入れるために、社内の子育て中の社員にも話を聞くなど、まさに社内・グループ内の知識やアイデアを総動員するような感じでしたね」(増田)
開発に当たってはスピード感も重視。全てを初めから作り込むのではなく、あえて最低限の機能でスタートし、ユーザーの声を聞きながら真に必要とされる機能を追加する方針をとりました。
ユーザーの声を聞き、アップデートし続ける
こうして2023年に「赤ちゃんノート」をリリース。
「アプリのシンプルな設計や広告がないことは好評でした。一方、要望として多かったのが、1人の赤ちゃんの記録を複数人で更新する『家族共有機能』。今となっては当たり前の機能ですが、リクエストをいただき急ピッチで実装しました。また、母乳育児を支援する情報を中心に、母乳が足りない場合の対応や離乳食の進め方など、育児全般に役立つ幅広い情報を発信しています」(増田)
ほかにも、赤ちゃんが母乳を何分飲んだかを測れる授乳タイマーの追加やレスポンス速度の改善など、ユーザーの声を聞きながら、日々改良を繰り返しています。また、パンデミックが落ち着いて対面での調乳指導が再開されてからは、指導をする栄養士が直接妊産婦さんにアプリを紹介しています。
「現場で活躍している栄養士たちがお客さまの声を一番よく知っているので、お客さまのニーズを聞いたり、訴求ポイントを相談したりととても頼りにしています。アプリを紹介するチラシの紙質や大きさも、栄養士の意見を反映して見直しました」(増田)
「赤ちゃんノート」では、母乳やミルクの飲ませ方、離乳食の始め方や、月齢に応じた離乳食レシピなど、栄養の悩みにお答えする記事を豊富に配信。いずれも明治が長年蓄積してきた知見を余すことなく提供しています。
「機能の追加や操作性の改良に伴って、『赤ちゃんノート』のダウンロード数や使用率が着実に増えてきています。安心して使っていただけるアプリに進化できているのではないかと手応えを感じています」(渡部)
渡部は一方で、このアプリ開発を通じてさらに広く多様なサービスを提供できないかと、Wellnizeと共に、「明治会員ID」を中心に据えた仕組みの開発にも取り組んできました。明治会員IDは、明治が提供するさまざまなWebサービスやアプリを連携させるもので、会員数は約18万人を超えます(2025年10月時点)。
「明治会員IDの仕組みによって、『赤ちゃんノート』を利用するお客さまに、アプリが提供するサービスに加えて、それぞれの興味関心に応じた情報や普段の生活での『便利』な体験などを、もっともっとお届けしていきたいと思っています」(渡部)
明治会員IDサービスとは?
株式会社 明治の公式会員サービス。ご登録いただくことで、共通のIDにて公式アプリや会員限定サービスをお楽しみいただけるほか、会員限定キャンペーンに参加いただけます。
デジタル活用で、もっと人々の健康に貢献を
これまでの道のりを振り返って、増田は次のように話します。
メーカー目線だけでは、いいサービスはつくれません。お客さまの声を起点にして初めて皆さんの役に立つことができると痛感しています(増田)
「実は以前に、一度立ち上げたデジタルサービスを終了したことがあります。もっとお客さまの声に耳を傾けてニーズを捉えていたら、継続できていたかもしれません。そうした苦い経験もあり、『赤ちゃんノート』では、徹底的にお客さま視点を持つことにこだわってきました。これからもお客さまの声を聞きながら進化させていくので、『赤ちゃんノート』の開発に終わりはありません。同時に、明治として常に正しい情報を伝え、妊産婦さんやご家族にしっかり寄り添うスタンスはしっかりと貫いていきたいと思います」(増田)
渡部は今後に向けて、「明治会員IDの活用で、継続的にお客さまをサポートしていく」と決意を語ります。
「他の食品メーカーもECを軸にしたサービスを展開していますが、当社の強みは赤ちゃんから高齢者まで幅広い年代に向けた商品群を持っていることです。これを活かして、例えば『赤ちゃんノート』を卒業した方に、お子さんの成長に応じて、また、ママさんやパパさんの年齢やライフスタイルに応じて、日々の食生活や健康に役立つ情報を継続的にお届けできる仕組みを強化していきたいです。それが、明治ブランドをさらに好きになり、より多くの明治商品を手に取っていただくきっかけになるとうれしいです」
デジタル技術と商品をうまく組み合わせることで、お客さまの豊かな暮らしや健康課題の解決に、さらに貢献できると考えています(渡部)
一人一人の健康にもっと寄り添っていくために——。デジタルサービスを通じたチャレンジはこれからも続きます。