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写真:KMバイオロジクス株式会社新生児スクリーニングセンター検査課課長の吉田真一郎

吉田 真一郎

KMバイオロジクス株式会社
新生児スクリーニングセンター 検査課 課長

一見、元気に見える赤ちゃんでも、潜在的にリスクの高い病気を抱えていることがあります。例えば先天性代謝異常は、早期に治療しなかった場合、さまざまな症状が現れ、障がいが残る場合もあります。明治グループの医薬品事業会社、KMバイオロジクスは、こうした病気がないかを検査する「新生児マススクリーニング」を長年にわたって実施するとともに、熊本大学と共同で新たな検査の研究開発にも取り組んでいます。KMバイオロジクスの吉田 真一郎に、新生児マススクリーニング事業について聞きました。

半世紀近く、新生児マススクリーニングを担い続ける

先天性代謝異常とは、生まれつき栄養素の代謝がうまくできなかったり、ホルモンの分泌が多過ぎたり少な過ぎたりする病気のこと。早期に発見・治療をすることで、その後の障がいや疾病を予防・軽減することができます。

日本では1977年に、先天性代謝異常などを見つけるための「新生児マススクリーニング」が国家事業として始まりました。公費検査の対象は、現在20疾患。KMバイオロジクスは、民間企業で唯一この事業に当初から携わり、これまでに300万人の新生児検査を実施してきました。

「現在は、熊本県、福岡県、佐賀県の各自治体さまから委託を受け、年間約6万人分の新生児検査を行っています。公益性が高く、サステナビリティの面からも社会貢献度が高い事業として、当社では新生児マススクリーニングを主要事業の一つと位置付け、誇りを持って注力しています」と吉田は話します。

KMバイオロジクスの新生児マススクリーニングの実績

これまでの検査数は、1977年から300万人。現在の検査数は、熊本県、福岡県、佐賀県で年間6万人。

より多くの疾患リスクを早期発見できるように

KMバイオロジクスでは、より多くの疾患を早期発見できるよう「拡大スクリーニング検査」の開発・導入にも取り組んでいます。

拡大スクリーニング検査は、公費検査に含まれていないものの、医学の進歩により治療法が開発され、新たに検査が可能となった先天性疾患を見つけるための自費検査。先天性代謝異常症の研究で知られる熊本大学病院小児科が中心となり、全国に先駆けて熊本で2006年にスタートしました。

KMバイオロジクスは当初からこのプロジェクトに参画。拡大スクリーニング検査を広く、また恒久的なサービスとして根付かせるために、2014年からは熊本大学との連携をさらに強化し、検査方法の改良や効率化に向けた共同研究を行っています。これまでに、分解酵素の欠損によって臓器に症状が出るライソゾーム病(LSD)や、感染症を繰り返してしまう重症複合免疫不全症(SCID)、筋力低下が進行する脊髄性筋萎縮症(SMA)など、国が指定する難病の検査方法を開発。熊本大学など各地域の専門医の先生方と共に、医師会や産婦人科医会などの地域医療や行政の理解、協力を得ながら検査の導入を進め、各疾患の早期発見につなげてきました。

「SMAやSCIDなどの難病は、ひとたび進行すると治療が非常に困難であり、患者さんやご家族、医療者はつらい思いをするばかりでした。しかし、病気の解明や治療法の確立に伴いスクリーニング検査ができるようになったことで、進行する前に病気を発見し、早期治療、時には根治につなげることもできます」

今まで救えなかった命を、救えるようになったのです。

こうした先進的な取り組みにより、LSD、SCID、SMAの拡大スクリーニング検査の重要性が認知され、熊本県では2022年4月から検査費の一部が公費助成されるようになりました。拡大スクリーニング検査に対する自治体の助成は全国初。大きな注目を集め、これを機に公費助成が全国各地に広まっています。

KMバイオロジクスでは現在、上記3疾患群(7疾患)に対応した拡大スクリーニング検査を、熊本、福岡、佐賀と四国4県の年間約8万人に対して実施しています。また、熊本大学と継続して新たな検査法の開発にも取り組んでおり、副腎白質ジストロフィー(ALD)と、アデノシン・デアミナーゼ(ADA)欠損症について、検査体制の整備を進めています。

「早く見つけてもらって良かった」
KMバイオロジクスは検査に不可欠なパートナー

新生児マススクリーニングはおよそ50年前に開始され、現在は拡大スクリーニング検査も含めて27種類の病気の検査ができるようになりました。検査によって、病気の要素を持っていても健康に過ごしている子どもたちも増えています。大切なのは、ご家族、産科医療施設、高次医療施設、検査施設(KMバイオロジクス)、行政機関の連携です。各所の連携によって、早期発見と患者さんに寄り添った医療を目指します。

当院で出生後、新生児マススクリーニングの結果、高次医療施設に紹介され、治療を受けられた赤ちゃんのお母さまから、「早く見つけてもらって大変良かった」というお話を聞きました。KMバイオロジクスにはこれからも検査の不可欠なパートナーとして、正確で迅速な検査のみならず、現在の検査法の進化や、新しい検査の開発を視野に入れた活躍を期待しています。

写真:社会医療法人愛育会福田病院小児科 健診外来部長の土屋 廣幸 先生
社会医療法人愛育会
福田病院小児科 健診外来部長
土屋 廣幸 先生

最適な検査・連携体制で、適切な医療につなげる

KMバイオロジクスでは、専用施設「新生児スクリーニングセンター」を保有し、ここで新生児マススクリーニングと拡大スクリーニング検査を実施しています。

写真:新生児スクリーニングセンターの外観
写真:新生児スクリーニングセンター内にある検査機器

新生児スクリーニングセンターでは、さまざまな最新機器を用いて検査を実施。

検査は、産科分娩施設などで採取した生後4〜6日の赤ちゃんの血液をもとに行います。血液を染み込ませ乾燥させた検査用血液ろ紙が新生児スクリーニングセンターに届くと、異常がないかどうか、いくつもの分析装置を使って検査。精度を高めるため必要に応じて複数回検査を行い、疾患の疑いがあれば、センターのスタッフがすぐに赤ちゃんのいる産科分娩施設に連絡し、専門医療機関での精密検査受診を促します。

「全検査の精度を管理することはもちろん、検査で陽性が出た場合は、精密検査受診まで迅速につなげることも私たちの役目です。特にSMAは、1時間でも早い発見が救命や治療効果に影響します。陽性判定が出たら、私たちから産科分娩施設と専門医療機関に同時に連絡し、早ければ翌日にも精密検査を受けられるようにサポートしています」

写真:新生児スクリーニングセンターで検査をするスタッフたち
センターのスタッフは約30人と国内最大規模で、約半数が臨床検査技師の国家資格を保有。高い技術を持った日本マススクリーニング学会認定技術者も6人在籍。

このような対応が継続的に行えるよう、新生児スクリーニングセンターでは設備・人材の両面から万全の検査体制を整備。スタッフの士気も高いと吉田は話します。
「スクリーニング検査には、赤ちゃんの人生が懸かっています。リスクを見つけることで、病気の早期発見・早期治療につなげることができるので、スタッフたちは使命感と緊張感を持って日々の業務に当たっています」

赤ちゃんの健康と、その家族の人生のために、力を尽くしたい。

KMバイオロジクスは、そうした思いを原動力に、今後も医師会や産科分娩施設を含めた地域医療や専門医療機関、行政と連携し、検査を確実に実施していきます。そして熊本大学との協働を通して、新たな検査の導入にも取り組んでいきます。