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吉田 菜々絵Nanae Yoshida

株式会社 明治
グローバルニュートリション事業本部 
乳幼児・フェムニケアマーケティング部

腹痛、頭痛、倦怠けんたい感、食欲不振、眠気、むくみ、イライラ、抑うつ──。200以上あるともいわれる生理に伴う不調※1に、8割以上の女性が悩みを抱えています※2。一方、男性は、こうした女性特有の心身の揺らぎを知る機会がほとんどないのではないでしょうか。ジェンダー平等が世の中のキーワードとなる今、女性の健康課題の一つでもある生理を正しく理解することの意義はますます増しています。2022年、明治はこうした課題に着目したプロジェクトを立ち上げました。

カフェでのつぶやきが出発点

プロジェクトの構想が生まれたのは今から約5年前。当時、吉田は女性をターゲットとする食品のマーケティングを担当しており、上司から新商品を期待されていたと言います。
「会議室でチームの皆さんと話して考えていても、思い浮かぶのはありきたりなアイデアばかり。煮詰まってしまって、ちょっと場所を変えてみようとカフェに向かったんです」

そこで吉田がポツリと呟いたのが「生理痛が重くて悩んでるんですよね」という悩み。すると、「実は私も」という声があり、話が盛り上がりました。「生理について話す機会は普段なかなかありません。でも話し始めると、いろんな悩みがあるのだなと思いました。」

これがプロジェクトの出発点となったのです。

生理に悩む女性は8割以上※2。仕事のパフォーマンスにも影響

早速、女性の健康課題を調べ始めた吉田たち。「健康のお悩みはありますか?とお尋ねしても、お答えの多くは冷え性や肌荒れなどで、生理の悩みは出てきません。ですが、生理の悩みはありますか?と具体的に伺うと、たくさん答えてもらえたんです」

2021年に行われた「女性の健康に関するアンケート調査」によると、女性の8割以上が生理の悩みを抱えていることが分かっています※2。仕事のパフォーマンスにも影響し、労働損失は年間5,516億円という試算もあります※3

生理の悩みを感じている女性の割合(n=1,110)

日経BP 総合研究所/クロス・マーケティング
「女性の健康に関するアンケート調査2021年」

月経随伴症状により仕事のパフォーマンスが半分以下になると感じている女性の割合(n=2,000)

日本医療政策機構「働く女性の健康増進調査2018」

女性特有の健康課題で職場で困ったことがある女性の割合(n=2,400)

経済産業省調べ

吉田はこう話します。「生理に関して悩みを抱えていても、対策をしていない方が6割というデータもありました※4。対策をするハードルが高く、仕方ないと思ってしまっているのです。女性たちがもっと気軽にセルフケアできるよう、食品成分に注目して何かしたいと思いました。"おいしく、楽しく"がポイントでした。」

研究所が積み重ねた成果が活かされる

手に取ってもらいやすく、身近になりやすいものの提供を目指してさまざまな可能性を探るなかで、吉田が目を付けたのは、眠っていたある研究成果でした。

研究担当の村上はこう話します。「以前から女性特有の健康課題に着目した研究を行っていて、乳たんぱくの一種であるアルファ-ラクトアルブミン(以下、α-LA)に、期待できる研究結果が出ていました。今回、吉田さんからプロジェクトの話を聞き、ぜひ一緒にやってみようということになりました。」

過去の研究から、α-LAには痛みや炎症を抑える働きがありそうなことが分かっていました。しかし、改めて生理という課題を考えると、痛み以外にもさまざまな症状が挙げられます。村上は、α-LAがそうした症状にもいい方向に働くのかを調べました。

月経に伴う症状のある女性にα-LAを摂取してもらい、自覚症状を聞きました。すると、α-LAを摂取している方のほうが、そうでない方よりも、身体の調子の悪さ、不快感が和らぐという結果となり、α-LAに 月経中の身体的な不快感を緩和する機能があることが確認されました。この研究結果から、α-LAという素材に着目し、女性に寄り添う取り組みが進んでいきました。

α-LAの研究結果

薬理と治療 48 (8); 1409-1427, 2020

月経に伴う症状のある女性(25~39歳)55人を2群に分け、月経周期として約1周期分の期間にα-LA900mgを含む食品か、α-LAを含まない食品のいずれかを摂取。1周期を開けた後、先とは異なる種類の食品を摂取。

村上はこう振り返ります。「生理が来るのは健康の証しと捉えている女性もいます。健康なのだから対策は必要ない、と。そうであれば日常的に摂取する食品で気を配れたらよいのではないかと考えていました。」

社内の理解の壁を超え、広がる共感の輪

とはいえ、プロジェクトはずっと順調だったわけではありません。大きな壁にぶつかったこともありました。その「壁」とは男性社員からの理解の得にくさ。女性ですら、女性のカラダの仕組みを知る機会は少ないのですから、男性はなおのことです。吉田は、女性のカラダの仕組みや、女性特有の健康課題が経済損失につながっていること、そして、女性活躍推進には欠かせない領域であることを資料にまとめ、説明を重ねました。

「なかなか理解を得られなかったときは、生理を語ることがタブー視されていることを実感しました。ですが、地道に伝え続けると、次第に共感してくれる人が増えていったことから、まず興味をもってもらい、考えてもらうことが重要と考えるようになりました。そうした経験から、素材の研究だけでなく、社会全体に情報を発信する必要性を強く感じるようになりました。」

明治だからできる貢献を

こうして立ち上がった明治の新たなプロジェクトは、啓発プラットフォーム「Femlink Lab.(フェムリンクラボ)」の立ち上げという形で、実を結びました。Femlink Lab.では、女性の健康課題の一つである、生理やPMS(月経前症候群)の基礎知識、社会や組織における生理との向き合い方などを、専門家の意見を交えながら発信しています。今後は、セミナー・交流サロンといった考える場を設けるなど、女性の生活がより豊かになる環境づくりを一層後押ししていきます。

WEBサイト「Femlink. Lab」

吉田と村上はそれぞれ語ります。

「Femlink Lab.には、こういう情報を求めていたというお声をたくさんいただいています。特に、食事や生活習慣を見直すことも生理の期間を快適に過ごす大切なポイントであるという点に興味を持たれる方が多いようです。女性だけでなく男性からも反響があるのがうれしいですね。生理の話をすることは恥ずかしいことじゃないということをもっと広めていきたいです。」

「これからはセルフケアをすることが当たり前になったらいいですね。暮らしぶりを大きく変えなくても日々の中で手に取ってケアできる。そんな身近な存在になれたらと思っています。」

  • ※1日本産科婦人科学会雑誌 研修コーナー
  • ※2日経BP 総合研究所/クロス・マーケティング「女性の健康に関するアンケート調査2021年」
  • ※3(株)明治調べ「生理の悩み実態調査」
  • ※4日本医療政策機構「働く女性の健康増進調査2018」