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石田 晶子Akiko Ishida

株式会社 明治
研究本部 技術研究所 次世代ものづくり研究部
カカオG長

豊田 健二Kenji Toyota

株式会社 明治
研究本部 技術研究所 次世代ものづくり研究部
カカオG

チョコレートではない、新しいかたちでカカオの価値を提供できたら―。そんな発想から明治が取り組んでいるのが、カカオフラバノールエキスの研究です。このエキスはチョコレートのイメージとは異なり、華やかなピンク色とフルーティーな風味が特徴。2023年春にはこのエキスを用いた飲料の発売を予定しており、「飲む」というこれまでにないカカオ体験を創造しようとしています。

「カカオなのにピンク色のエキスってどういうものだろう?」と新鮮な感覚を抱く人が多いはず。そこで、技術研究所カカオグループの石田と豊田に、研究開発に対する思いや素材開発について詳しく聞きました。

新素材のカカオフラバノールエキスとは?

カカオフラバノールとは、カカオポリフェノールの成分の一部。一般的には、カカオをチョコレートへ加工する工程でカカオポリフェノールの量がどうしても減少してしまいます。ところが、カカオをエキスへと加工すると、比較的その減少を抑えることができます。石田は次のように語ります。

カカオフラバノールをエキスとして提供できたら、カカオの新しい魅力を提供できるはず――。その思いが出発点でした。

こうして研究に取り組み、開発した新素材がカカオフラバノールエキスです。このエキスを使用した商品をイベントなどの機会に口にしていただいた方からは、「カカオがフルーツであることを体感できた」、「カカオのイメージが変わった」などの回答をいただいています。

乾燥したカカオ豆
抽出したカカオフラバノールエキス

ベトナムの大学や農園との連携

カカオフラバノールエキスの研究開発は、ベトナムの研究機関や農園をパートナーとしています。明治は2006年からカカオ豆の産地に足を運び、生産者を支援する「メイジ・カカオ・サポート」に取り組むとともに、カカオ豆の生産・加工に関する研究開発を進めてきました。その中で明治の研究者がベトナムに足を運び、カカオ研究の第一人者とされる当時ホーチミン市農林大学の教授だったフック氏や農園とのつながりをつくっていったと言います。

フック 氏(左)、農園を経営するトゥァン 氏(中央)、ラム 氏(右)

カカオ豆生産は、実験ではうまくいっても農園で連続した生産に落とし込んだときにうまくいくとは限りません。ベトナムでのカカオ生産に関しては、フック氏に相談しながら行ってきました。カカオは産地によって機能成分や香味に関わる成分の特徴が異なりますが、フック氏との研究で積み重ねた知見から、エキスとして活用するカカオを栽培・加工するならベトナムが適していると考えました。そこから、エキスへの加工に最適化したカカオ豆の研究開発がベトナムでスタートしたのです。

農園で調達マネージャーを務めるフォン 氏
この農園は荒野にカカオの木を植えるところからスタートし、現在は300ヘクタールの面積を誇るまで拡大している

研究によって、ベトナムのカカオ産業を切り開く

2009年から明治との共同研究に取り組み、スタッフの皆さんとは信頼関係を築いてきました。これまでカカオの発酵に関する実験を数多く行い、そこから得られた膨大なデータで、カカオの発酵工程についての理解や知見を深めることができました。ベトナムでは、カカオは比較的新しい商業用作物であるため、産業として発展させるには応用研究が必要です。私は研究者として、ベトナムのカカオ開発に貢献できることをとてもうれしく思っています。

ホーチミン市農林大学
元教授 フック 氏

ベトナムならではのカカオを最高品質で届ける

私たちの農園は2016年にカカオの栽培を開始し、現在ではベトナム最大の面積を誇る農園となりました。明治からはカカオ生産について多くを学び、生産プロセスの改善につなげることができています。さらなる品質向上に努め、この土地特有の味わいと最高品質のカカオを生産したいというのが、私たちの思いです。また、地域の小規模農家と連携することで雇用を創出し、カカオ生産で安定した収入を得られるようにしたいとも考えています。明治とはこれからも共に歩み、発展していく頼もしいパートナーでありたいと願っています。

ベトナム中部高地の農園
経営者 トゥアン 氏

素材開発はトライ&エラーの繰り返し

チョコレートへの加工に最適化したカカオ豆と、エキスへの加工に最適化したカカオ豆は異なります。そのため、カカオフラバノールエキスを抽出するためのカカオ豆を作るには、これまでにない新しい加工方法を見出す必要がありました。これまでの知見を活用できないので、つまずくことも多かったそう。しかし、そこで明治の研究者が助けられたのは、ベトナムの人たちの真面目で熱心な姿勢でした。石田は次のように話します。

トライ&エラーを繰り返しながら、なぜうまくいかなかったのかを理解して学ぼうとする姿勢が研究者・農園の方ともに強く、このチームで良かったと心から思っています。

ベトナムで協力していただいている農園は、カカオ生産の経験がまだそれほど長くないため、十分な知見があるわけではありません。それにも関わらずこの野心的なプロジェクトに挑戦してくれた彼らの気持ちに報いるためにも、しっかりと成果を出さなければならない――。それが研究に携わる石田や豊田に共通する思いです。

カカオの価値を高め、産地に還元したい

石田も豊田も研究者として目指すのは、カカオの機能をチョコレートではないかたちの商品で消費者に届け、カカオの価値を高めること。そしてその先に、開発した商品がビジネスとしてうまく循環し、カカオ産地に利益が還元されることも目標に見据えています。

私たちはカカオ産地の方と顔を合わせて研究しているからこそ、カカオは彼らがプライドを持って育てたものだと知っています。

そう話す豊田は、生産者の顔が見えるからこそ、産地に還元していきたいという思いも強く持っています。さらに、カカオの産地は暑く、残念なことに産地の方々はチョコレートを食べる機会があまりありません。エキスであれば冷やした飲料やソルベなどの商品にできるので、もっとカカオを楽しんでもらえるはず、とも考えています。

ベトナムのカカオ生産量は、実はそれほど多くありません。現地の農園に足を運ぶ機会もある石田は、このプロジェクトを通してカカオの価値を高めていくことができれば、農園周辺の地域コミュニティも興味を持ってくれるはずだと考えています。

ベトナムでのカカオ作りの価値を上げていくことで、もっと多くの人にカカオ作りを広めていきたい。それが私たちの願いです。