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株式会社 明治 ものづくり戦略本部 技術部 土居 恵規

土居 恵規Yoshinori Doi

株式会社 明治
ものづくり戦略本部 技術部

明治グループは生産者やサプライヤーとの"顔の見える関係"を築くことで、カカオの持続可能な調達を実現しています。

ガーナ西部の村、アセラワディ。村を率いるリーダーの一人として、意外な人物が開発チーフを務めています。それは明治グループの土居 恵規。チーフの証しであるブレスレットと伝統衣装を与えられ、村民から敬われる存在です。日本から往復2万6千キロと、頻繁に訪問することが難しいこの地で、なぜチーフになったのでしょうか?

アセラワディは明治グループにとって、カカオの調達先の一つです。近年、カカオの需要は世界的に増加しています。初めて土居がガーナを訪問したのは、安定調達のための品質調査が目的でした。

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ガーナのアセラワディで村人たちに会う土居

「当時の農村部には、電気や安全な水が手に入らないところも多かったです。また、およそ3割ものカカオが病気や虫害で失われるといわれていました。農薬や肥料、苗木を手に入れるのは容易ではなく、栽培の知識もきちんと伝わっていませんでした。日本では当たり前のインフラが全くなかったのです。」

帰国後、土居は長期的な視野でアセラワディに投資すべきだと報告しました。"地球の裏側"にいる農家を支援する必要性を知った明治グループは、2006年「メイジ・カカオ・サポート」プロジェクトを開始。アセラワディは最初の支援先となります。

大切にしたのは、地元の人たちと顔の見える関係を築くことでした。遠方の生産地を定期的に訪問する企業は多くはないようですが、できる限り多く足を運ぶことで、農家や地元のトレーダーたちからの信頼を得ることができたと思います。

小さく生んで大きく育てる

技術者だったはずの土居は、突如として、村の開発責任者の役割を任されます。
「当時の明治グループは、どうしたら地域に貢献できるのか、具体的な考えを持っていませんでした。限られた予算と人で『最も効果的な支援は何か』と考えました。」

村人たちからさまざまな意見を聞いた上で導き出した答えは、井戸の設置でした。
「飲料水や生活用水を確保することが、村の全ての人にとって最も有益だと考えたのです。」

その後、農家に対する苗や肥料、農薬の提供、栽培技術の指導など、取り組みは急速に広がっていきます。カカオの栽培はリスクを伴う事業です。収穫までに3〜4年、発酵や乾燥にも時間がかかります。加えて、害虫や気象条件によっては収穫が危ぶまれることもあります。明治グループが行う農家支援は、そのようなリスクを減らすことにつながっています。

さらに、土居が言うように、地域のリソースがサステナブルであることも大切なポイントです。
「井戸をきちんと維持するために、使用料を集める仕組みを地域の皆さんで作っています。コミュニティーが自立して動く仕組みを大切にして取り組んでいます。」

こうして手探りで始まったメイジ・カカオ・サポートですが、農家の生活支援から地域づくり、教育、「Cocoa & Forests Initiative」とのパートナーシップによりガーナの森林減少を食い止め、回復する取り組みへと、その領域は拡大。実施国もベネズエラ、エクアドル、ペルー、ドミニカ共和国、ブラジル、メキシコ、ベトナム、マダガスカルの8カ国まで広がりました。

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安全な飲料水を確保するための井戸造りを支援
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カカオの収穫工程を学ぶ村人たち

サステナビリティラベルか、顔の見える関係か

"持続可能な調達"のためには認証制度を導入する方法もあります。そうした制度では、基準を満たした製品にはサステナビリティラベルを表示することが可能です。こうした認証制度は消費者に認知されているという利点はありますが、サステナビリティの基準を満たす原料が50%未満でも与えられるものもあります。また、メーカーはもちろん、時には認証機関さえも、基準を満たしていると言うサプライヤーの主張を検証するのは容易なことではありません。

こうしたラベルの付いた製品に対する関心は世界的に高まっていましたが、明治グループは認証制度を導入するという選択をしませんでした。なぜなら、認証を受けるための負担を生産者やサプライヤーに転嫁することを避けたかったからです。その代わりに、明治グループは生産者への直接的な支援やサプライチェーンのトレーサビリティーを確保することを選択しました。生産者やサプライヤーと直接つながることが持続可能な調達のための最も良い方法であると考えています。

今、土居は明治グループ社内向けの啓発役を担っています。
「メイジ・カカオ・サポートをさらに進めていきます。また、明治グループは2026年までに"サステナブルカカオ豆"の調達比率を100%にするという目標を掲げています。そのためにどのようなアクションを起こすべきか、検討しているところです。」

アセラワディとの強いつながりも保ち続けています。
「私が一番よく訪れる海外の国はガーナです。パンデミックが落ち着いたら必ずまた行きます。開発チーフとして、村の皆さんと会って、これからの支援について話し合わなければなりません。」

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メイジ・カカオ・サポートでは、子どもたちへの教育プログラムも実施