顔写真:渡部紘子

渡部 紘子

株式会社 明治
グローバルカカオ事業本部
カカオ開発部

顔写真:須田彩歌

須田 彩歌

株式会社 明治
グローバルカカオ事業本部
カカオマーケティング部

チョコレートの原料として知られているカカオ。食物繊維やたんぱく質、ミネラル、カカオポリフェノールなど豊富な栄養素を含み、近年ではスーパーフードとしても注目されています。
約100年にわたりチョコレートをつくり、カカオが持つ可能性を探求し続けてきた明治グループは、新たに「美容」という領域での挑戦をスタート。2024年に世界で初めてカカオ由来の美容サポート成分「カカオセラミド」の素材化に成功して以来、さまざまな商品の開発を進めています。開発担当の渡部、マーケティング担当の須田に、商品化までの道のりと今後の夢について聞きました。

パンデミックが契機となった新発見

明治はカカオのさらなる品質向上と農家の生活支援のため、2006年から、カカオ産地に研究員が直接足を運び、栽培方法や発酵方法の指導、生活・教育環境の改善、農器具や苗木の提供などを行う活動「メイジ・カカオ・サポート(MCS)」に取り組んでいます。

MCSを通じて、これまで以上にカカオに対する深い知見を蓄積してきましたが、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより新たな転機を迎えたと渡部は振り返ります。

「カカオ産地への訪問が困難になったことをきっかけに、私たちはカカオ自体を改めて見つめ直し、『チョコレートの原料』というこれまでの枠を超え、カカオをフルーツとして捉え直すことに着目しました」

写真:カカオハスク
カカオハスク

こうして2022年から、「ひらけ、カカオ。」をスローガンにカカオの新たな価値を発信する活動をスタート。そうした中で、カカオをフルーツとして包括的に研究・分析していった結果、これまでほとんど有効活用されてこなかったカカオ豆の薄皮「カカオハスク」に、多くのセラミド(ヒト型遊離セラミド)が含まれていることを発見したのです。

写真:カカオセラミドについて語る渡部

「新成分の発見に社内外からも大きな期待が寄せられました。長年のカカオ研究と産地支援活動の積み重ね、そして、カカオの新たな可能性を探求するという情熱が実り、画期的な発見につながったのだと思っています」

今まで有効活用されていなかったカカオの一部から希少なセラミドが見つかったときは、社内でも驚きの声が上がりました。(渡部)

「美容×チョコレート」という新たな可能性

近年、健康食品や化粧品の素材として注目されているセラミド。
セラミドは年齢とともに減少するため、外から補給することの重要性が提唱されています。

図:セラミドの分類図
セラミドの分類図
図:各植物に含まれるセラミド含有量(mg/g)
各植物に含まれるセラミド含有量(mg/g)
※2004年北海道農業研究センター成果情報を一部改変、カカオ素材はLC-MS/MSにて測定

セラミドは、大きく合成セラミドと天然由来セラミドに分類されます。
天然由来のセラミドは、さらに動物セラミドと植物セラミドに分けられています。
植物セラミドの中には、主に食品用途で使用される「グルコシルセラミド」と「遊離型セラミド」が存在しており、「遊離型セラミド」には、ヒトの肌に存在するセラミドと同じ型である「ヒト型遊離セラミド」が含まれています。しかし、植物セラミドに「ヒト型遊離セラミド」が含まれることは珍しく、非常に貴重な存在です。
カカオの未活用部位には、この「ヒト型遊離セラミド」が多く含まれていることが明らかになりました。

希少なセラミド成分が発見されたときの印象を、渡部は次のように話します。

「カカオポリフェノールが多く含まれている『チョコレート効果』は、健康志向の食品として認知度が高くなってきて、日本のチョコレート市場全ブランドの中でも売り上げ上位になっています。美容サポート成分として注目されているセラミドがカカオから見つかったときは、チョコレートと美容を掛け合わせれば、『チョコレート効果』に匹敵する新しいチョコレートブランドが生まれるのではないか、という期待感がありました」

カカオセラミドの登場によって、当社のチョコレート商品の新たな方向性が見えた気がしています。(須田)

食べるセラミド?!新商品開発の裏側

画期的な新成分を発見した後、明治は素材化に向けた検討を重ね、カカオセラミドを活用した商品開発に着手。そして、2025年1月にカカオセラミド配合のチョコレート「カカオボーテ」を発売します。
開発時には、味にもこだわったという渡部。そのポイントを次のように話します。

「セラミド配合という美容を意識したチョコレートにしたかったので、甘さは控えめにすることを追求しました。糖分を抑えることを考えるとダークチョコレートにする選択肢もあったのですが、控えめだけれどクセになる甘さのミルクチョコレートで、つい手に取ってしまうおいしさに仕上げました。また、『美容をイメージさせる高揚感』を味で表現したかったので、香りにもこだわり、華やかな香りが特徴のペルー産カカオを使用しています」

写真:カカオ由来の美容サポート成分配合「カカオボーテ」
カカオ由来の美容サポート成分配合「カカオボーテ」

2025年1月に販売を開始した際、渡部がこだわった味に対する評価は高く、想像以上の反響だったといいます。

「チョコレートでセラミドを摂取できることへの驚きの声ももちろんいただきましたが、味がすごくおいしいという声が多かったのはうれしかったです」

自分を育んで慈しむチョコレートに

チョコレートといえば、自分へのご褒美に購入する人が多いかもしれません。
しかし、「カカオボーテ」はご褒美としてのチョコレートとは一線を画す、新しいチョコレートにしたいと渡部は語ります。

「自分を育んで慈しむためのチョコレートになってほしいと思っています。人生100年時代といわれるからこそ、健康的にいられることはもちろん、いかに楽しく美しく生きていくか、ということも重視されています。おしゃれやメイクで気持ちが明るくなるように、毎日が豊かになるようサポートする存在になれたらうれしいです」

写真:カカオセラミドについて語る須田

さらに、今後は「カカオ=美」のイメージを定着させていきたいと須田は話します。

「『カカオボーテ』はまだまだ認知度が高いわけではないので、ブランドを知ってもらうためのプロモーションの工夫や、おいしさを体感していただく機会を増やしていく必要があります。また、『カカオボーテ』だけでなく、今後新たにカカオセラミドを活用した商品を展開し、カカオの新しい『美容』という価値をしっかりとお客さまに伝えていきたいと思います」

健康に加え美容へのニーズが高まる時代に、「カカオ=美」という新しい価値を届けたいです。(須田)

「セラミドといえばカカオ」を世のスタンダードに

2025年夏には、カカオセラミド配合のスティックゼリー「カカオボーテゼリー」を期間限定発売するなど、チョコレート以外の商品開発にも力を入れています。
今後の目標について、須田は次のように話します。

「カカオセラミドは、食品に限らず、他社との協業による化粧品などへの応用も検討しています。さまざまな商品を通して、カカオセラミドでもっと多くの人の美に貢献したいです。将来的には、『セラミドといえばカカオだよね』と認識されるように、インナービューティー市場や化粧品市場におけるカカオセラミドの存在感を強めていきたいですね」

渡部は、すでに新しい商品の構想も走り出していると話します。

「チョコレートやゼリーに続き、次の商品開発にも挑戦しています。新たな価値をより多くの人に届けていきながら、カカオ農家の生活向上をはじめとした産地への還元をより強化していきます。カカオにかかわるすべての人の笑顔の循環を育んでいきたいと思います」

カカオセラミドを素材としてもっと進化させ、世の中に定着させていくことが目標です。(渡部)

写真:須田、渡部、2人の写真