{{item.title.replace(/“|”/g, '"' )}}

KMバイオロジクス株式会社 研究開発本部 製品開発部 部長 園田 憲悟

園田 憲悟Kengo Sonoda

KMバイオロジクス株式会社
研究開発本部 製品開発部 部長

新型コロナウイルス感染症に対するワクチン開発は世界的にこれまでにないスピードで進められ、大きな成果を見せました。製薬会社が次に目指すのは、"ワクチンの選択肢"を増やすことです。明治グループのKMバイオロジクスは、副反応が比較的少ないといわれている"不活化ワクチン"の開発に取り組んでいます。

多くの国で推奨されている新型コロナのワクチン接種。しかし、健康上の理由や副反応への懸念から、ワクチンを接種できない方もいます。そこで期待されているのが、ワクチンの種類を増やして選べるようにすることです。

ワクチンの種類の違いとは?

そもそも、ワクチンにはどのような種類や違いがあるのでしょうか?2022年3月現在、日本では新型コロナウイルス感染症に対して、"mRNAワクチン"と"ウイルスベクターワクチン"という2種類の新しいタイプのワクチンが接種されていますが、これらのワクチンには、新型コロナウイルスそのものは含まれていません。mRNAワクチンでは、スパイクタンパク質(ウイルスがヒトの細胞へ侵入するために必要なタンパク質)の作り方を伝える遺伝物質"mRNA"を接種し、ウイルスベクターワクチンでは、スパイクタンパク質のDNAを人体に無害な別のウイルスに組み込んで接種します。ワクチン接種後に体内に作られるスパイクタンパク質を、私たちの免疫システムが異物として認識し、抗体が作られます。

写真:
コロナウイルスを感染させ、ウイルス変性した細胞

一方で"不活化ワクチン"は、文字通り 不活化されたウイルス、つまり薬剤などで感染力や毒力をなくし無害にしたウイルスそのものを接種して免疫反応を起こします。不活化ワクチンは、インフルエンザや狂犬病、日本脳炎などのワクチンとして長年使われてきた実績があり、弱毒生ワクチンと比べて、より安全だとされています。

新型コロナの不活化ワクチンが実用化されれば、ワクチンの選択肢が今よりも増え、接種率のさらなる向上につながることでしょう。特に今後、新型コロナと共存するウィズコロナの段階に移行し、インフルエンザのように定期的なワクチン接種が必要となる際には、重要な役割を果たすと考えられています。

副反応の少ない不活化ワクチンへの期待

新型コロナウイルスの不活化ワクチン開発に挑むKMバイオロジクスは、戦後まもない1940年代に天然痘ワクチンの製造を始め、これまでインフルエンザ、狂犬病、A型肝炎、B型肝炎、日本脳炎などのワクチン開発に成功してきました。

新型コロナの流行初期、KMバイオロジクスに入ったのが、新型コロナウイルスがVero細胞で増えやすいという情報でした。Vero細胞とはアフリカミドリザルの摘出腎臓に由来する培養細胞株で、KMバイオロジクスが開発・製造する日本脳炎ワクチンに使われているもの。つまり、KMバイオロジクスがこれまで培ってきた不活化ワクチン開発の経験を、新型コロナに応用できると考えられました。さらに、最大5,700万人分の新型インフルエンザワクチンを製造可能な施設も有しており、新型コロナワクチン開発に踏み出すことにしたのです。

しかし、新型コロナウイルスを取り扱う施設には高度なウイルス封じ込め能力が求められます。封じ込め能力はBSL(バイオセーフティレベル)1〜4で評価されますが、新型コロナウイルスは上から二番目のBSL3という極めて高いレベルの封じ込め能力がないと扱えません。KMバイオロジクスは、すでに取得していたBSL2+認証の経験を踏まえてBSL3の設備を立ち上げ、ワクチン開発を急ぎました。

イラスト:不活化ワクチンの製造工程

KMバイオロジクスの新型コロナワクチン開発は、国立感染症研究所、東京大学医科学研究所、医薬基盤・健康・栄養研究所と協力し、今まさに開発を進めています。

園田は、「不活化ワクチンの開発には通常7〜10年かかりますので、約3年での実用化を目標とする今回のプロジェクトは極めて異例と言えます」と話します。

2022年3月現在、第Ⅱ/Ⅲ相臨床試験を進めています。緊急時の承認制度の活用を含め、2022年内の承認取得を目指しています。

スピーディーな開発をする上で、経営陣の迅速な意思決定や政府からのサポートは重要です。ですが、何よりも大切なのは、私たち研究者の姿勢だと思うのです。

『パンデミックからの脱却に技術で貢献したい』その思いが、大きな原動力になっています。

写真:
開発の様子
写真:
Vero細胞

新型コロナウイルスとの"共存"に向けてワクチン接種を

写真:
臨床試験の様子

今後、継続的なワクチン接種が必要になっても、何十年も前から安全性と有効性が確認されている不活化ワクチンが開発できれば、安心して接種していただけると考えられます。日本国内では今、接種されているワクチンがすでにありますが、不活化ワクチンも、患者さんや医療関係者にとって選択肢の一つになっていくと期待しています。

「未接種の方にワクチンの選択肢をご提供できれば、日本での接種率アップに貢献できるのではないかと考えています」と園田は言います。

「数々ある感染症のうち、人類が根絶に成功したのは天然痘とポリオの一部だけなのです。このことを思うと、人類とインフルエンザの関係のように、新型コロナとも共存していく未来が予測できます。定期的な予防接種も必要になるでしょう。副反応の少ない不活化ワクチンが重要な役割を果たすことはほぼ間違いないと考えています。」