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日本に新しいチョコレート文化を。「異例」ずくめの商品開発に挑む。 日本に新しいチョコレート文化を。「異例」ずくめの商品開発に挑む。

2016年9月に発売された『明治 ザ・チョコレート』。
(2024年10月に『明治 ザ・カカオ』としてブランドリニューアル)
従来の明治の商品とは
まったくイメージが異なるこのチョコレートは、
発売後半年強で
すでに3,000万個を売り上げる人気商品となっている。
『明治 ザ・チョコレート』は
どのような思想のもとに生まれたのか?
中心メンバーとして開発とマーケティングに携わった3人を追う。

phase01

チョコレートを、
コーヒーやワインのような
嗜好品にしたい。

変えたかったのは、チョコレートを取り巻く日本の文化そのものだ。
明治のチョコレートづくりの歴史は、すでに90年以上に及ぶ。その原料であるカカオ豆へのこだわりも強く、1980年代からはカカオ豆の産地や特徴をアピールした商品を発売。さらに2000年代以降は社員がカカオ豆の産地に赴いて農園の発掘や生育の指導などを行い、より高品質なカカオ豆を自ら調達する取り組みにも力を入れている。この『明治 ザ・チョコレート』の商品開発を主導した宇都宮も、過去に研究所に在籍していた頃、ベネズエラやエクアドルなどの国々を飛び回っていた。
「当時、熱帯地域の国々をたびたび訪れ、言葉が通じない農家の方々と必死でコミュニケーションを取りながら一緒にカカオづくりに取り組みました。そしてその場でカカオ豆の発酵実験などを行い、品質を見極めていく。そこまで究めないとおいしいチョコレートはつくれない。こうして本格的に取り組み始めたカカオづくりですが、現地で実験に携わった社員はすでに数十名に及び、継続的な活動につながっています」。

変えたかったのは、チョコレートを取り巻く日本の文化そのものだ。
明治のチョコレートづくりの歴史は、すでに90年以上に及ぶ。その原料であるカカオ豆へのこだわりも強く、1980年代からはカカオ豆の産地や特徴をアピールした商品を発売。さらに2000年代以降は社員がカカオ豆の産地に赴いて農園の発掘や生育の指導などを行い、より高品質なカカオ豆を自ら調達する取り組みにも力を入れている。この『明治 ザ・チョコレート』の商品開発を主導した宇都宮も、過去に研究所に在籍していた頃、ベネズエラやエクアドルなどの国々を飛び回っていた。
「当時、熱帯地域の国々をたびたび訪れ、言葉が通じない農家の方々と必死でコミュニケーションを取りながら一緒にカカオづくりに取り組みました。そしてその場でカカオ豆の発酵実験などを行い、品質を見極めていく。そこまで究めないとおいしいチョコレートはつくれない。こうして本格的に取り組み始めたカカオづくりですが、現地で実験に携わった社員はすでに数十名に及び、継続的な活動につながっています」。
昨今、チョコレート業界では“Bean to Bar”(カカオ豆からチョコレートまでの全工程を自社で担うこと)というコンセプトが注目されているが、明治は90年前からそれを実践し、いまや“Bean to Bar”を超えて“Farm to Bar”の域に達している。明治のチョコレートづくりにかける熱意は、おそらく世界のどの企業にも負けないと宇都宮は胸を張る。
『明治 ザ・チョコレート』が生まれた背景には、そうして自ら生産した良質のカカオ豆を使った、いままでにない明治らしいチョコレートをお客さまに届けたいという思いと、そしてもう一つ、日本のチョコレート市場に変革を起こしたいという志も秘められていた。宇都宮は語る。
「日本においてチョコレートというのは、まだまだ甘いおやつという認識が一般的。しかし欧州では、チョコレートが大人の嗜好品として暮らしのなかに入りこんでいます。ちなみに国別のチョコレートの年間消費量は、日本が一人あたり2kgなのに対してドイツは12kg。きっと日本のチョコレート市場も現在の2倍程度になるポテンシャルを秘めている。そこで、チョコレートの本当の魅力を伝えて、コーヒーやワインのような嗜好品として認められる商品をつくりたいと考えたのです」。

昨今、チョコレート業界では“Bean to Bar”(カカオ豆からチョコレートまでの全工程を自社で担うこと)というコンセプトが注目されているが、明治は90年前からそれを実践し、いまや“Bean to Bar”を超えて“Farm to Bar”の域に達している。明治のチョコレートづくりにかける熱意は、おそらく世界のどの企業にも負けないと宇都宮は胸を張る。
『明治 ザ・チョコレート』が生まれた背景には、そうして自ら生産した良質のカカオ豆を使った、いままでにない明治らしいチョコレートをお客さまに届けたいという思いと、そしてもう一つ、日本のチョコレート市場に変革を起こしたいという志も秘められていた。宇都宮は語る。
「日本においてチョコレートというのは、まだまだ甘いおやつという認識が一般的。しかし欧州では、チョコレートが大人の嗜好品として暮らしのなかに入りこんでいます。ちなみに国別のチョコレートの年間消費量は、日本が一人あたり2kgなのに対してドイツは12kg。きっと日本のチョコレート市場も現在の2倍程度になるポテンシャルを秘めている。そこで、チョコレートの本当の魅力を伝えて、コーヒーやワインのような嗜好品として認められる商品をつくりたいと考えたのです」。

phase02

立ち塞がる数々の壁を、
データと熱意で突破していく。

明治はこれまで、大人にも好まれるチョコレートの新市場を開拓しようと、良質なカカオ豆を付加価値にした商品をたびたび開発・発売してきたが、どれも成功したとは言い難かった。宇都宮は言う。
「カカオの風味を味わうのであれば『ダークチョコレート』を商品化して提供する。それが従来の考え方でした。でも、それだと市場に受け入れてもらえなかった。そこであらためて消費者調査を行うと、日本人の6割はミルクチョコレートを好むという結果が。すなわち、マーケットを広げるためにはミルクチョコレートを好む層を取り込んでいかなければならない。そこで砂糖を極力抑え、カカオとミルクを味わう『ダークミルクチョコレート』という新しいカテゴリーを打ち出そうと考えたのです」。
宇都宮とともに『明治 ザ・チョコレート』のプロジェクトをリードしたのが山下と佐藤だ。山下は商品の味やデザインなどのブランディングを、佐藤はブランド全体のマーケティングを主に担当した。『明治 ザ・チョコレート』のパッケージは、日本のチョコレート商品では珍しい縦型と、一見するだけでは中身がわからないデザインが目を引く。その仕掛け人が山下だ。

明治はこれまで、大人にも好まれるチョコレートの新市場を開拓しようと、良質なカカオ豆を付加価値にした商品をたびたび開発・発売してきたが、どれも成功したとは言い難かった。宇都宮は言う。
「カカオの風味を味わうのであれば『ダークチョコレート』を商品化して提供する。それが従来の考え方でした。でも、それだと市場に受け入れてもらえなかった。そこであらためて消費者調査を行うと、日本人の6割はミルクチョコレートを好むという結果が。すなわち、マーケットを広げるためにはミルクチョコレートを好む層を取り込んでいかなければならない。そこで砂糖を極力抑え、カカオとミルクを味わう『ダークミルクチョコレート』という新しいカテゴリーを打ち出そうと考えたのです」。
宇都宮とともに『明治 ザ・チョコレート』のプロジェクトをリードしたのが山下と佐藤だ。山下は商品の味やデザインなどのブランディングを、佐藤はブランド全体のマーケティングを主に担当した。『明治 ザ・チョコレート』のパッケージは、日本のチョコレート商品では珍しい縦型と、一見するだけでは中身がわからないデザインが目を引く。その仕掛け人が山下だ。
「海外のチョコレートのパッケージはほとんどが縦型。私たちはこの『明治 ザ・チョコレート』をぜひ海外でも認められる商品にしたいという思いがあり、縦型は譲れませんでした。またデザインについても、いわゆるチョコレート商品っぽくない、要素をそぎ落としたシンプルなものを敢えて採用。上層部にプレゼンした時、みなさん困惑の表情を浮かべていたのが印象的でしたね(笑)。さらに、一枚のチョコレート上にドーム型やギザギザ型などさまざまな形状を設け、形の違いで口の中での風味の変化を感じられるようにしたいと企画。また、それを薄さ10ミリのパッケージの中に3つ個包装にして収めたいと考えたのですが、これが技術的になかなかの難題で……生産部門と何度も折衝を重ね、彼らの力もあってこのユニークな包装設計の商品が実現しました」。
どれもこれまでの明治にはない異例の取り組みであり、当初、社内では難色を示す向きもあった。宇都宮は振り返る。
「ある会議の場では、上層部と延々と議論したことも……また別の会議で『このパッケージでは売れないのでは』という意見が出た際にも、『この商品のターゲットとなる層の方からは支持をいただけるはずです』と主張し、それで議論が収束したこともありました。我々には、綿密な消費者調査によるデータの裏づけがありましたし、この方向に進めば必ず新しい市場が生まれるという信念が当時の原動力でした」。

「海外のチョコレートのパッケージはほとんどが縦型。私たちはこの『明治 ザ・チョコレート』をぜひ海外でも認められる商品にしたいという思いがあり、縦型は譲れませんでした。またデザインについても、いわゆるチョコレート商品っぽくない、要素をそぎ落としたシンプルなものを敢えて採用。上層部にプレゼンした時、みなさん困惑の表情を浮かべていたのが印象的でしたね(笑)。さらに、一枚のチョコレート上にドーム型やギザギザ型などさまざまな形状を設け、形の違いで口の中での風味の変化を感じられるようにしたいと企画。また、それを薄さ10ミリのパッケージの中に3つ個包装にして収めたいと考えたのですが、これが技術的になかなかの難題で……生産部門と何度も折衝を重ね、彼らの力もあってこのユニークな包装設計の商品が実現しました」。
どれもこれまでの明治にはない異例の取り組みであり、当初、社内では難色を示す向きもあった。宇都宮は振り返る。
「ある会議の場では、上層部と延々と議論したことも……また別の会議で『このパッケージでは売れないのでは』という意見が出た際にも、『この商品のターゲットとなる層の方からは支持をいただけるはずです』と主張し、それで議論が収束したこともありました。我々には、綿密な消費者調査によるデータの裏づけがありましたし、この方向に進めば必ず新しい市場が生まれるという信念が当時の原動力でした」。

phase03

『明治 ザ・チョコレート』が
社内の意識を変え、
世の中を変えていく。

マーケティングも異例ずくめのチャレンジだった。大型商品ではTVCMを投入するのが当たり前であったが、それだけに特化しないプロモーションもその一つ。佐藤は語る。
「我々が伝えたいのは、チョコレートの新しい楽しみ方。それはTVCMなどのマス広告だけでは訴えきれない。そこで今回はお客さまとのコミュニケーションを複合的にしようと試みたのです」。
特に力を入れたのは、お客さまが『明治 ザ・チョコレート』に直に触れる場を数多く提供することだった。チョコレートのイベントへの参加や百貨店などとタイアップしたプロモーションで、お客さまが体験をもって知ることのできる場を展開するとともに、自社内で「ハローチョコレートレッスン」と銘打ったセミナーも開催。そこで共感を得られれば、口コミで『明治 ザ・チョコレート』の魅力がおのずと伝わっていく。
「従来、取り組んでこなかったプロモーションでしたが、直接お客さまと話をして、その反応を直に感じることで、この方法は間違っていないと自信を深めていきました。お客さまの笑顔は、我々にとっての大きなモチベーションにもつながりました」。

マーケティングも異例ずくめのチャレンジだった。大型商品ではTVCMを投入するのが当たり前であったが、それだけに特化しないプロモーションもその一つ。佐藤は語る。
「我々が伝えたいのは、チョコレートの新しい楽しみ方。それはTVCMなどのマス広告だけでは訴えきれない。そこで今回はお客さまとのコミュニケーションを複合的にしようと試みたのです」。
特に力を入れたのは、お客さまが『明治 ザ・チョコレート』に直に触れる場を数多く提供することだった。チョコレートのイベントへの参加や百貨店などとタイアップしたプロモーションで、お客さまが体験をもって知ることのできる場を展開するとともに、自社内で「ハローチョコレートレッスン」と銘打ったセミナーも開催。そこで共感を得られれば、口コミで『明治 ザ・チョコレート』の魅力がおのずと伝わっていく。
「従来、取り組んでこなかったプロモーションでしたが、直接お客さまと話をして、その反応を直に感じることで、この方法は間違っていないと自信を深めていきました。お客さまの笑顔は、我々にとっての大きなモチベーションにもつながりました」。
山下も言う。まだ世の中にない理想のチョコレートを形にして発信し、お客さまに喜んでいただける。こんなに素敵な仕事はない、と。
そして現在、数々のプロモーションが奏功し、『明治 ザ・チョコレート』は快調に売り上げを伸ばしている。欧米の品評会でも高い評価を受け、権威あるアワードも受賞した。そしてこのヒットは、営業現場にも変化をもたらしている。宇都宮は語る。
「この商品は我々が事前に『どうすれば店頭で商品が魅力的に映るか』を徹底的に研究し、それを3人で全国行脚をして営業担当に説明、理解を求めたのですが、現場から成功事例が次々と寄せられ、社内が大いに盛り上がっています。値引きなどの価格提案ではなく、価値提案で勝負する方向にマインドがチェンジしている。今後は、営業担当者もカカオの産地に派遣して収穫などを経験させる方針であり、全員をチョコレートの伝道師にしていきたいですね」。
単にチョコレートを売るのではなく、カカオの魅力やチョコレートの新しい楽しみ方まで世の中に説いていく。最近はそんな明治の姿勢に共感する企業や団体が次々と現われ、カカオ生産国の大使館からもイベント開催などのオファーがあるとか。こうしたムーブメントが社会に広がれば、日本でもチョコレートが嗜好品として受け入れられ、人々の暮らしに変化を与えていく。まさに明治は今、日本に新たな食文化を創り出そうとしているのだ。

山下も言う。まだ世の中にない理想のチョコレートを形にして発信し、お客さまに喜んでいただける。こんなに素敵な仕事はない、と。
そして現在、数々のプロモーションが奏功し、『明治 ザ・チョコレート』は快調に売り上げを伸ばしている。欧米の品評会でも高い評価を受け、権威あるアワードも受賞した。そしてこのヒットは、営業現場にも変化をもたらしている。宇都宮は語る。
「この商品は我々が事前に『どうすれば店頭で商品が魅力的に映るか』を徹底的に研究し、それを3人で全国行脚をして営業担当に説明、理解を求めたのですが、現場から成功事例が次々と寄せられ、社内が大いに盛り上がっています。値引きなどの価格提案ではなく、価値提案で勝負する方向にマインドがチェンジしている。今後は、営業担当者もカカオの産地に派遣して収穫などを経験させる方針であり、全員をチョコレートの伝道師にしていきたいですね」。
単にチョコレートを売るのではなく、カカオの魅力やチョコレートの新しい楽しみ方まで世の中に説いていく。最近はそんな明治の姿勢に共感する企業や団体が次々と現われ、カカオ生産国の大使館からもイベント開催などのオファーがあるとか。こうしたムーブメントが社会に広がれば、日本でもチョコレートが嗜好品として受け入れられ、人々の暮らしに変化を与えていく。まさに明治は今、日本に新たな食文化を創り出そうとしているのだ。

  • 技術系

    菓子商品開発部

    スペシャリティチョコレート担当マネージャー

    1993年入社/食品生産化学専攻修了

    宇都宮 洋之

    大阪工場でカカオとチョコレートの生産技術に5年半携わった後、研究所にてチョコレートの開発や品質分析、さらに海外のカカオ農園の発掘や評価などを担う。2013年より菓子商品開発部へ。

  • 技術系

    菓子商品開発部 専任課長

    スペシャリティチョコレート担当

    2001年入社/農芸化学専攻修了

    山下 舞子

    研究所でチョコレートの基礎研究に2年携わった後、坂戸工場でチョコレートの生産ライン導入に従事。その後、再び研究所にて『チョコレート効果』や『メルティキッス』の開発を担い、2008年より現部署。

  • 事務営業系

    菓子マーケティング部 マーケティンググループ

    専任課長 スペシャリティチョコレート担当

    1996年入社/商学部卒

    佐藤 政宏

    入社以来16年間、量販店などのバイヤーの方々への営業活動でキャリアを積み、大手スーパーの本部などを担当。2012年より菓子マーケティング部に異動し、『明治 ザ・チョコレート』のマーケティング全般を手がけている。

※所属・内容は取材当時