2019年 ステークホルダー・ダイアログ
「明治グループ2026ビジョン」への想い
川村
明治グループでは、2016年がちょうど創業100周年ということもあり、次の10年に向けた「2026ビジョン」を策定しました。今回の「2026ビジョン」の大きな特徴は、「事業ビジョン」「サステナビリティビジョン」「経営基盤ビジョン」という3つのビジョンで構成され、三位一体となって推進していく点です。事業の成長だけでなく、サステナビリティ活動の強化やガバナンスの健全性が伴ってこそ、企業は持続可能な成長を遂げていけると考えています。
ピーダーセン
まず、「事業ビジョン」「サステナビリティビジョン」「経営基盤ビジョン」が三位一体となっている構造はとても良いと思います。この考え方は、企業の健全な成長「Healthy Growth」につながるものです。「Healthy Growth」は、事業の発展やガバナンスの高度化、サステナビリティの追求など、どれか一つが欠けていても成り立ちません。このような三位一体のグローバル経営を推進することで、明治グループの「Healthy Growth」を実現するのだというメッセージを、あらゆるステークホルダーに今の10倍ぐらい強く発信してもいいと思います。(笑)
川村
「Healthy Growth」というキーワードはいいですね!
事業会社で話す機会がある場合には、この三位一体となった「2026ビジョン」の話をして、特に管理職にはしっかり理解してもらうようにしています。これからも社内外問わず、あらゆる場面で発信していくつもりです。
オリジナリティと自分ゴト化の追求 「サステナビリティ2026ビジョン」のNextステージへ
ピーダーセン
今回の「サステナビリティ2026ビジョン」は3つの大きな活動テーマを設定し、それを横串で刺すように責任あるサプライチェーンを共通の活動テーマに据えており、サステナビリティのビジョンとしてはきれいな体系で納得感もあります。
今後は「サステナビリティ2026ビジョン」を推進するにあたって、日本の企業にありがちなフォロワーの発想をやめ、世界のトップランナーを見ながらも明治グループらしいシナリオを描くことが重要です。トップランナーには学ぶけれども、トップランナーを真似るわけではない。自分たちのやりたいことを示すことが大切です。それが明治グループに期待する次のステージなのです。
川村
今のお話はよくわかります。私もオリジナリティのある目標設定という点で問題意識を持っていました。特に、以前の当社グループのサステナビリティ活動は「よき企業市民」というレベルを踏み出せないところがありました。しかしながら、これからは世界に目を向けながらSDGsなどへの取り組みを積極的に推進するために、もう一歩二歩踏みこんだ課題解決型サステナビリティ活動へと進化させる必要があると考えています。
川村
もう一つ感じていた課題は、社員一人一人がサステナビリティ活動を「自分ゴト」として捉えるようになる必要があるということです。自らいろいろな活動に参加したり、社会課題を意識したアイデアを仕事に取り入れてみたり。サステナビリティ活動を自分たちのやるべき活動だと考える意識の醸成が、明治グループらしい独自の活動につながると考えています。
ピーダーセン
2050年には地球の人口が100億人まで増加すると予想されています。そうした中で明治グループが事業、環境、社会貢献といった活動においてどのようなイノベーションを起こしていくか。現在推進している「サステナビリティ2026ビジョン」を起爆剤にして、その先も見据えたイノベーションを全社員参加型で仕掛けていって欲しいと思います。
世界の人々に向けたフラグシップ的な取り組みとは何か、明治グループらしさとは何かを模索しながら、会社の「Healthy Growth」を実現していくことを期待しています。
ピーター D. ピーダーセン氏
特定非営利活動法人ネリス代表理事
プロフィール
コペンハーゲン大学文化人類学部卒業。2000年に環境・CSRコンサルティングを手掛ける株式会社イースクエアを共同創業。2011年まで同社の代表取締役社長を務める。2014年からリーダーシップ・アカデミー代表に就任((株)トランスエージェント内)。NELIS-次世代リーダーのグローバルネットワークの共同代表。主な著書に『レジリエント・カンパニー』『SDGsビジネス戦略』がある。
キーワードは「栄養」と「農業」 明治グループらしいサステナビリティ活動の推進
川村
明治グループらしいサステナビリティ活動と言えば、当社グループ創業時の事業精神に「質実剛健」「至誠奉仕」「栄養報国」という3箇条があります。中でも一番特徴的なのが「栄養報国」。栄養を以って国に報いる、現代風に言い換えれば栄養事業を通じて持続可能な社会に貢献していく、と言うことでしょうか。
明治グループは、まさに「栄養報国」という言葉がピッタリ当てはまる会社です。牛乳、ヨーグルト、粉ミルク、菓子さらには医薬品に至るまで、幅広く栄養や健康に関わる事業を展開しています。そういう意味では、栄養をキーワードとしたサステナビリティ活動こそ明治グループらしさを出せるのではないかと思っています。
二つ目は、「農業」への支援です。乳事業は酪農家から調達する生乳がないと成り立ちません。また、チョコレート事業も、高品質なカカオ豆がないとおいしいチョコレートは作れません。どちらも農業が起点となり、事業基盤となる存在なのです。農業に対しての貢献は、実は自分たちの事業の安定化や発展にも直結するのです。
ピーダーセン
先ほどの三位一体のビジョンもそうですが、創業時の3箇条の精神もこれからのグローバル時代に通用すると思います。
今の時代ですとグローバルな社会課題として肥満がありますが、こうした課題を解決する意味でも「栄養報国」は興味深い。また、「質実剛健」は何事も無駄にしないということですよね。この3箇条には、すごく面白いメッセージが含まれていると思います。
これからの明治グループに期待すること
ピーダーセン
これからの時代は、あまり楽観視できる未来ではないかもしれません。例えば、2050年には100億人のうち30億人がスラムに住むようになり、地球人口の52%は水ストレスに直面するといわれています。水ストレスは農業をはじめとした食糧生産にも大きな影響を与えるでしょう。
一方、かつてドラッカーは「社会の問題は機会の源泉である」と提唱しました。これまで大きく成長してきた企業というのは、その時代の社会課題に真摯に取り組み、その課題を事業に取り込んできました。つまり、このような社会課題を機会と捉えて事業に転換していくことができる会社こそ、グローバルリーダーになり得ると考えています。
川村
私たちBtoC企業としては、食糧不足、高齢化、低栄養などの社会課題がキーワードになると思っています。また、医薬品事業では、薬剤耐性菌といった社会課題があります。抗生物質の適正使用の周知というのが一つの策ではありますが、それだけでなく、そこにイノベーションをおこし、耐性菌の抑制と感染症治療に貢献できる薬剤を開発できれば課題解決にもつながります。
先進国にも途上国にもさまざまな社会課題があります。あらゆる課題に積極的に取り組んでいくという心構えが、これからの時代は必要だと思いますね。
ピーダーセン
そうですね。全ては「明日の子どものために」です。明治グループは、人類が生きていくために期待されている企業群のど真ん中にいると思います。人類が直面する大きな社会課題とは何かを定義し、社員を巻き込んだ課題解決のイノベーションを実現することで、グローバル規模での「Healthy Growth」を目指して欲しいと思います。
川村
「サステナビリティ2026ビジョン」の実現に向けて、これまでの活動を継続しながらさらに栄養や農業への貢献といった明治グループらしいサステナビリティ活動を社員の参加も促しつつ、より広く深く取り組んでいきたいと思います。
企業が発展する上で重要な役割を果たしているイノベーションの評価基準は、社会課題の解決にどれだけ結びついているかだと思います。当社グループは、社会課題に対するイノベーションという点で高い競争力を有していると信じています。
本日はありがとうございました。