Meiji Dairy Advisory(MDA)の取り組みに参加する北海道・根室市の北翔農場を紹介します。新しい時代に向けて、人にも牛にもストレスフリーな環境を目指す、佐藤幸男さんと佐藤亮輔さんにお話を聞きました。
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佐藤幸男さん
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佐藤亮輔さん
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事業承継に向けて
コミュニケーションの場を創出
1979年、根室の大自然の中で酪農をはじめた北翔農場。約60頭からの小規模なスタートでしたが、現在はホルスタイン600頭、和牛100頭を飼養するまでに発展を遂げてきました。
「父親が公務員として働きながら半農をしており、小さい頃から牛や馬と近くで接してきたので、動物は身近な存在。根っこの部分は生き物が好きというのがありますね」こう話すのは創業者の佐藤幸男社長。農場で迎えてくれた牛の人懐っこさから、愛情深く飼養されていることが伝わってきます。
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亮輔さんを見つけ、近寄ってくる乳牛。
春~秋の間は広大な放牧地で牧草を食べて育ちます。 -
仔牛にミルクを飲ませる佐藤千鶴さん(亮輔さんの妻)。
現在、農場のスタッフ7名と家族4名でシフトを組んで営農中。
北翔農場が法人化してから30年。「新しい世代に託す時期だと捉えている」と話す佐藤社長。後継者である亮輔さんが就農した頃から、MDAを利用して「最大の課題である、次世代の酪農家の育て方を模索」し、承継を進めてきました。「酪農をはじめた当初から、明治グループにはお世話になってきました。根室地域全体での勉強会に参加したり、以前から明治さんのエサを使ったりしていたので、MDAがスタートする前からの付き合いです。農場に関連する相談はもちろんですが、今では事業承継の相談にものってもらっています」(佐藤社長)
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MDAが承継をサポートしている農家数は全国に約10戸。第三者視点で社長と後継者のコミュニケーションを円滑にする役割を担っています。「父と息子というとなかなか難しいのですが(笑)、MDAのメンバーが仲介してくださるので、スムーズに話し合いができることも、とてもありがたく思っています」と佐藤社長。
月に一度、スタッフや社長、MDA関係者が集うミーティングを実施。社長側を「チーム北翔」、スタッフ側を「チーム亮輔」として、互いのコミュニケーションの場を設けて明治グループはその橋渡し役をしています。
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定期的に開催されている「チーム亮輔」のミーティング。
毎月改善点を話し合い、営農に活かしている。
定期的な場を設けたことで、農場の様子にも変化がありました。「MDAのミーティングを通し、飼料データや生乳生産量など経営的な数字を共有することで、スタッフが自発的に考えたり、行動したりすることが多くなりました。近年は当事者意識を持ってくれるようになっています」と佐藤社長。
「以前は完全にトップダウン型でしたが、今は経営側が何をやろうとしているのかを、熱意を持ってスタッフに伝えることを大切にしています」と亮輔さん。共有のため、スタッフの目標設定やアクションプラン、評価シートを導入しました。「それぞれの仕事に向き合う姿勢を尊重しながら、スタッフの一人ひとりが何をすべきか、目標を達成するための改善策を話し合う機会を設けています」(亮輔さん)
時代に合わせた
フレキシブルな牛飼いに
農場内で働く人々の密度の濃いコミュニケーションは、牛の飼養環境の改善にも一役買っています。牛にとっての生きがいである食べたり、寝たりする環境を清潔に整えるためには何が必要か、現場から課題があがることも増えました。その結果、牛のストレスを軽減でき、病気の予防、ひいては乳質の向上にもつながっています。
「出荷された生乳の検査項目に体細胞数と生菌数があります。そこで明治グループから情報を得ながら、スタッフのみんなで乳頭の洗浄方法を再確認したり、搾乳後のミルクフィルターの確認体制を構築したりすることで乳質も改善されてきました」(亮輔さん)
現在では牛と働く人、その環境を重視した営農スタイルで、乳量の増加や乳質の向上などが実現できる良い循環が生まれているのを肌で感じるといいます。
スタッフ一丸となって技術力を強化してきた同農場。近年、亮輔さんが主体となって力を入れているのが、農場のデジタル化です。20年前から乳量管理ソフトを使っていますが、それに加えて3年前から、明治飼糧が提供する牛群管理システム『まきばの彼女』を導入。データ集積によって、牛の管理の効率化が格段に進んでいます。
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出産してすぐの牛の搾乳をする佐藤社長。
牛の目を見れば、熱があるなどの不調もわかるそう。 -
明治飼糧がリリースする「まきばの彼女」のシステム。
「『まきばの彼女』で繁殖を管理すると、種付けや妊娠鑑定のタイミング、妊娠状態などが個体ごとに色分けされます。搾乳日数が可視化されるため、乾乳や更新のタイミングの見極めなどにも役立っています。2つのソフトの併用によって、広大な農場の中でもスマホの操作で、スタッフのみんなが牛たちの体の状態を正確に把握できる。データも蓄積していくため、これからデータの活用も積極的に行いたいです」と亮輔さん。
IoTの登場で、技術革新が進んでいる酪農業界。常に先を見ながら、技術をフレキシブルに取り入れることで、人の負担を減らし、働く環境を整えていくことが大切というのが、亮輔さんの考えです。
今後は「経営者ひとりの頭で営農するのは無理な時代になっていくでしょう。 スタッフも経営に寄り添い、農場で働く全員が経営の一員という意識になることで、農場を発展させていってもらえたら」と佐藤社長。そのエールを受けて、次代を担う亮輔さんも、「目標は、牛の頭数を増やしていくこと。将来的には、今の倍の頭数にして、搾乳量も6,000~8,000トンぐらいにするのが理想です」と農場のさらなる発展を誓いました。