酪農家にとって後継者問題は悩みの種です。Meiji Dairy Advisory(MDA)の取り組みを通じて第三者継承を進めるMoimoiファーム。酪農経営の難しさ、事業継承の最適なタイミングについて社長の堤富士人さん、専務の畔原健太さんにお話を聞きました。
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堤富士人さん
畔原健太さん
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経営を安定させるための法人化から第三者継承へ
Moimoiファームの前身は、新潟県の旧味方村にある5軒の酪農家が時期を同じくして始めた酪農団地のうちの1軒、堤牧場です。40数年前に堤社長は父親の跡を継ぎ、酪農業をスタート。その後、数十年経ち、隣接する酪農家の後継者が不在であったり、経営者本人が若くして亡くなってしまったりということがあり、最後の1軒として堤社長が残りました。5棟の牛舎を維持していくためには、飼養頭数を増やして管理しなければと考え、法人化。フィンランド語で「Hi(やあ!)」という意味の「Moi」がモーモーという牛の鳴き声に似ていたため、Moimoiファームと名付けました。
法人化にあたっては、後継者の確保に課題を抱えていたMoimoiファームにおいて、誰もが後継者になれるというのが大きなメリットでした。「どんな仕事でも、好きな人がやった方がうまくいく」と語る堤社長は、酪農をやりたいという気がある人であれば農家でなくても、農場をその人に託そうと考えていました。そんな時、現れたのが畔原専務です。「家畜に関わる仕事がしたい。ここで修業して実家の酪農を継ごうと考えていましたが、実家が廃業し、戻る先がなくなってしまいました」(畔原専務)。そこで堤社長は、畔原専務にゆくゆくはMoimoiファームを継いでほしいと打診しました。
しかしながら、その時のMoimoiファームは牛の頭数が少なく作業効率にも問題があったため、経営が不安定で、このままではつぶれてしまうという状況でした。そこで、少人数でも多くの乳牛を飼養していけるよう、思い切って飼養頭数を増やし、搾乳ロボットを導入、経営の効率化を図りました。現在は堤社長、畔原専務、従業員1人と3人のアルバイトで日々約2トンの生乳を生産しています。
搾乳ロボットを導入し、生産性の向上を図ってきたものの、牧場の経営をもっと安定させなければ、畔原専務に引き継ぐことができないと考えた堤社長は、MDAを取り入れることにしました。「最初は、飼養管理に行き詰まりを感じていたので、飼養管理レベルをもうワンランク向上させたいと思い、MDAに参加することを決めました」と堤社長。当時の農場の管理レベルは、平均よりも少し上ではあるものの、今後も酪農を続けていく上で、それだけではいけないと感じていました。
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9年前にデラバル社のロボット搾乳機を導入。
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ロボット搾乳のほか、パイプラインミルカーやパーラーなど牛舎のスタイルに合わせて行っています。
飼養管理の目標は、“生乳を搾ることに適さない牛を減らす”ことだと語るお二人。通常、牧場の牛が生涯で出産する平均回数は、2~3産と言われていますが、Moimoiファームでは、7産や8産の牛もいます。途中で病気になってしまう牛を減らせれば、必然的に生涯の生乳生産量も向上していきます。「体調を崩した牛が多く出た時、いち早く気付いて対応できるようにしていきたいです。対応できなかった牛が出ると、異変に気付くことができなかった自分の力不足を感じますし、堤社長に頼らず独り立ちできるように観察力を養っていきたいです」と畔原専務は語ります。良きタイミングでの継承を目指して、飼養管理レベルを向上させていくことが喫緊の課題です。
作業工程の見直し、情報共有で生産性がアップ
MDAの取り組みでは、第三者の視点で、農場における作業工程の確認を行い、作業のカイゼン指導、事業継承に向けた経営方針の再検討を行ってきました。「ここでは当たり前だと思っていた作業が、『こう変えると効率化できるのでは?』とか、『他の農場では、こんな作業工程です』とMDAのチームの皆さんが提案してくださるので、とても助かっています」(畔原専務)。
中でも日々のルーティンの見直しが、出荷する乳質の向上に大きく役立ったと言います。「今まで連絡事項を共有する場というのは、設けていませんでした。作業をしながら、牛の具合や機械の調子の話はしていましたが、どうしても見落としが出てしまっていました。現在は作業の前後にミーティングを行い、情報を共有してメモを取った上で、作業を始めています。そうすることで、作業の抜けが少なくなりました」(畔原専務)。
現在、新潟県味方地区の酪農家は、Moimoiファーム1軒のみ。畔原専務は、MDAを通して“つながり”をつくっていきたいと語ります。「酪農家は、堆肥や敷料、周辺への臭気問題もあり、地域とのつながりも重要視されます。この地域には酪農家がいないので、MDAを通して他の地域の酪農家と情報交換ができる場になっていくといいなと考えています」(畔原専務)。Moimoiファームでは、2022年から国産の自給飼料である稲WCS(稲発酵粗飼料)を使った取り組みをスタートしました。新潟県はお米の産地としても有名です。周囲の農家から頂くもみ殻を敷料に使用していますが、年間通してまかなえる量の確保には至っていません。他の地域を例に、循環型農業のかたちを築いていく予定です。
「経営理念に掲げている“社会に貢献する 未来への種を蒔く”。今は、このかたちが少しずつ見えてきたと思っています。この想いは変わらぬまま、あとは畔原の世代に任せていきます」(堤社長)。育成牛もはじめ牧場内で牛の生涯が循環し、地域とも連携を図る農業のかたちを少しずつ整えているMoimoiファーム。「ゆくゆくは新潟の青果と牛乳を使った何かで地域を盛り上げていきたいです」(畔原専務)。酪農家にとって後継者の問題は大きな課題ですが、第三者継承のかたちを取ることで広がる未来もあります。
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Moimoiファームの経営理念。