15年以上続くメイジ・カカオ・サポート。その活動やプロジェクトを通して、産地のカカオ農家を支える仕組みを構築し、カカオ業界が抱える課題と向き合ってきました。先輩たちが行ってきたMCSの活動を引き継ぐのは、カカオ豆の若手研究員・宮部昌子。入社して9年、MCSの課題や将来への思いを聞きました。
私が明治に入社したいと思う決め手となったのは、就職活動の時に参加した説明会でした。社員の方がすごく楽しそうに仕事について説明していたことが印象的で、特に心に残ったのは、実際にカカオ豆の産地を訪れて、現地のカカオ豆農家に発酵方法を指導しているという話。すでにメイジ・カカオ・サポート(以下、MCS)として始動していたことは当時の私は知りませんでしたが、自分も地球の裏側まで足を運んで、カカオ豆に関する研究や開発に携わりたいと思いました。
その念願が叶って、2013年の入社以来、商品に使うカカオ豆の品質やその機能性を研究する部門で、ひたすらカカオ豆と向き合っています。
入社当初は「遠い土地をサポートするなんて、すごいなぁ」と、どこか遠い存在のように感じていたMCSのプロジェクト。自分が参加するようになり、実際に現地を訪れると、日本では得られない学びがたくさんありました。例えば、チョコレートを作る上で欠かせない、カカオポッドの収穫、カカオ豆の発酵、乾燥といった行程。これは産地でないとその過程を見ることができないので、出来上がったカカオ豆からのチョコレート作りしか経験していない当時の自分には、大きな衝撃と感動がありました。一方、文化や価値観の違いという壁にぶつかることも多くありました。良質なカカオ豆を作るために明治が推進する方法で発酵をお願いしても、その通りに事が運ばなかったり……。そこで自分の当たり前を押し付けるのではなく、その方法をどうして取り入れるのか、カカオ豆にどう影響するのかといったことを一つ一つ丁寧に説明することにしました。すると、少しずつ関係性が築けて、状況は好転していったように思います。
現在、私がMCSのプロジェクトとして従事しているのは、マダガスカルでの産地開拓。これまで明治では、恒常的にマダガスカルのカカオ豆の購入をしていませんでしたが、カカオ豆の希少品種・クリオロというホワイトカカオが栽培されている可能性もあることから、新たな産地として開拓を進めています。
明治ではクリオロ原種の原産国といわれるメキシコでもホワイトカカオを生産しています。そうした中、今回新たにマダガスカルを産地として視野に入れたのは、ホワイトカカオがメキシコから海を渡り、インドネシア、インドを経由してたどり着いた、ホワイトカカオ産地の終着点だという説も理由の一つです。カカオ豆の原種ともいわれるホワイトカカオは、カカオ豆に長年携わる私たちにとっても大切にすべき存在。病気に弱くて繊細な品種であるが故、最終的にたどり着いたマダガスカルという地でも、それを守っていきたいと考えています。
また、マダガスカルのカカオは、フルーツのような香りと豊かな酸味があり、とても特徴的です。その魅力を最大に引き出すため、MCSの当初の活動のように、適切な農具を提供したり、発酵方法を指導したりと、地道に現地との関係性を築いている最中です。コロナ禍ということもあって、現地にはまだ一度しか行けていないのですが、現在はオンラインで頻繁に連絡を取り合っています。リモートで意思疎通するのはなかなか難しいところもありますが、こちらの指示で生産してもらったカカオ豆のサンプルを送ってもらい研究所で分析し、フィードバックしたり、実際にそのカカオ豆で作ったチョコレートを試食してもらったり。そのチョコレートを食べてもらった時のカカオ農家の笑顔は、ずっと心に残っています。そんな笑顔を守るためにも、マダガスカル産カカオを使ったチョコレート商品化を全力で目指していきます。
入社して9年、MCSで私たちがサポートできているのは、カカオ豆作りに関わっている一部の人たちだけなのでは……と感じることもありました。そんな考え方を変えてくれたのは、私が入社する前にMCSを立ち上げ、長きにわたり現地のサポートに尽力してきた先輩方でした。その先輩方に教えていただいたのは、“一時的にサポートして終わりではダメだ”ということと、“一方的に価値観を押し付けてはいけない”ということ。良質なカカオ豆を作るために重要なのは、正しい発酵方法を教えたり、必要な農具を提供したりと、カカオ豆農家、明治、消費者の三者が理解し合ったうえで、未来に続く支援をし続けること。そうして、そのカカオ豆を使って私たちがお客さまにいい商品を届けることで、カカオ豆の価値自体が上がり、産地のカカオ農家の暮らしの向上につなげていく。三者それぞれがプラスに向かうサポートをすることを絶えず意識しながら、MCSのプロジェクトに取り組んでいます。
情熱に溢れる先輩方からバトンを受け取り、私たちがMCSの活動を続けていくことで、どの産地でも適切な価格で取引が行われ、カカオ業界全体が変わっていくと信じています。地道な活動ですが、農家の皆さんの暮らしをよくするいい循環を生み出し、それを少しずつ世界全体に広げていけたらいいなと思っています。
- 品質を育てる人。
- 宮部昌子(みやべ・まさこ)
2013年に入社し、研究所のカカオ研究を行う部署に配属。チョコレートの原料となるカカオ豆の開発を行い、メイジ・カカオ・サポートに携わるように。2019年より、マダガスカルにてカカオ豆の開発に従事。現在は希少な品種であるホワイトカカオの発展と拡大を目指している。